千葉県船橋市のUさん
<相続から資産を守るための組み換え>
◆土地を処分し、賃貸マンションとアパート2棟を建築。
◆投資用賃貸マンションを購入後、相続税納税用地を先行して売却
依頼者は・・・
Uさん47歳。主婦兼不動産貸付業。
土地所有者の姪で、本家を守る立場にある。
現在は親と二世帯住宅に住む。配偶者有り、子供無し。
依頼前の資産内容は・・・
祖母が約3,300坪の敷地を船橋市の駅近くに所有していた。敷地内には老朽化した家作、三軒の寮、祖母の自宅、依頼者の自宅が建っていて、それ以外は畑と荒地だった。相続税評価は約25億円、相続税は約12億円と試算された。
資産組み換え後の資産内容は・・・
依頼者名義の土地が約2,300坪。売却した土地は約700坪だった。敷地内には新築7階建て(約600坪)のコンセプトマンション、新築(約100坪)の店舗、新築の祖母の自宅、新築の姉の自宅、新築のアパート2棟、依頼者の自宅、二軒の寮が建っている。
その外に約400坪の畑と駐車場が残っている。また、東京都内に新築の4階建て賃貸マンションを購入した。
依頼者の要望は・・・
「最近祖母から資産管理を任せてもらえるようになったので、相続対策を総合的に提案してほしい。とりわけ相続税から先祖伝来の畑を守って欲しい。また、本家として代々受け継がれてきた格式みたいなものを残したい」という漠然としたものだった。
コンサルタントから見た課題は・・・
①何も手を打たなければ相続税評価が約25億円、相続税が約12億円。つまり持っている土地が半分になってしまうことになる。もちろん、残したい畑はすべて失ってしまう。
②その場合12億円を支払うために土地を処分することになるが、マンション市況の良し悪しで土地が売れるかどうか決まってしまうような立地である。市況の良い時機に相続が発生するか疑問だ。
③相続人が8人いる。しかも兄弟姉妹とその子供達である。法定相続するとなると分割は不可能で、最終的にはすべて処分して分ける方法しかない。
④土地を処分せず有効活用する場合には借金が必要だが、借金を相続人全員で引受けてもらえるとは思えない。やはり資産と借金はセットで相続することが望ましい。
⑤広大な土地なので、全体の開発となると時間がかかる。相続までの時間が読めない。
⑥固定資産税の滞納が始まっているので、早急に納税原資を確保すると伴に安定収入を得なければ、固定資産税さえ払えない。
⑦自宅の周りの環境を維持しながらの開発が要求されている。また、名門の家に相応しい開発も期待されている。
⑧高齢の相続人の方々(おば)にも理解をしていただかなくてはならない。
⑨緑を残した街づくりを期待されているので、植栽計画が必要になる。
⑩占有者に明渡しを求めなければならない。
実際の展開は・・・
自宅周辺以外の土地を処分、賃貸マンションとアパート2棟建築
固定資産税を支払うためにも、有効活用の頭金をつくるためにもまず、土地の処分から始めた。自宅周辺のまとまった土地は、残す土地と活用する土地とに分け、自宅から離れた土地を処分することにした。
処分する方法は、住宅地としては良い条件であるので宅地分譲とした。300坪ほどの市街化区域内農地(2カ所)に道路を入れ、宅地開発してから売却した。素地のままで売却すると建売会社に買い叩かれるので、自ら開発をして宅地にして売却した。
この場合は、宅地建物取引業法の規制にかからないようにしなければならないのでハウスメーカーとタイアップして分譲することにした。そうすることで建売業者の低い買取価格ではなく、エンドユーザーの価格で売却できた。
①イントロダクション
東京近郊の船橋市のターミナル駅近くに南欧風の「椰子の木の待ち合わせ場所」として名所にもなっているコンセプト賃貸マンションがある。約1万㎡を超える敷地が再開発され、緑豊かな植栽に囲まれたそのマンションは周辺地域の景色を一変させた。ここがUさんの土地に建つ新築マンションだ。
「オーナーの夢」と「ユーザーの憧れ」と「建築家の誇り」がベストマッチングして完成させた。近隣住民にも高い評価を得て、街づくりの好事例となっている。家賃10万円を超える1Kでありながら入居待ちが続いていることからもその評価が見て取れる。数々の問題点を一つ一つクリアーしながら、オーナーと供に創り上げていった過程を紹介しよう。
②環境共生型で計画
JR総武線のターミナル駅から徒歩9分という立地にある。鹿児島から運んできたワシントン椰子をシンボルツリーとし、敷地全体を緑地で覆う植栽計画プランとした。
前面は都市計画道路予定地のためセットバックを余儀なくされたものの、その部分をインターロッキング仕上げの緑道にすることによって近隣の人々に空間を提供することにした。両サイドにはシャラやミモザなどが植え込まれている。最寄り駅への近道になるため、この緑道を利用する人々は多く、感謝されている。
賃貸マンションにはオーナー自らが経営するイタリアンレストランとベーカリーショップが併設されている。そこには椰子や季節の花木を配し、南欧風の庭園がプランニングされている。落ち着いたジェラストーンとテラコッタを敷き詰めたテラスの中心には壁泉のオブジェを据え、そのまわりをオリーブやローズマリーで異国情緒を盛り上げている。
建築計画では施工床面積が3,277㎡、RC造で地上7階建て。間取りは30㎡の1K57戸と店舗2戸の他、60台の駐車場がある。オーナー自宅も新築されている。
入居者がホテルライフ的なリゾート感覚の暮らしができるようにランドスケープには特に苦心した。また、情報化時代に対応し24時間365日対応のインターネットが接続・通信費とも無料で利用できるようになっている。その他ホテル感覚のエントランスホールや奥行き1.8mのバルコニーなど入居者を納得させる仕様を満載した。
③オーナーの夢と誇り
オーナーは地元の名士で、かつては“人の敷地を踏まずとも駅まで歩いていける”と形容されていた程の大地主である。戦後の農地改革や数々の税金の支払いによって残った敷地は約1町で、戦前の20分の1になっていた。平成6年以降に実施された固定資産税の増税によって資産を維持するだけでも大変だった。相続税を試算した結果、約半分の敷地が納税用地として必要であることがわかった。
「このままでは、相続税と固定資産税によって先祖代々築いてきた有形、無形の資産が本当に無くなってしまう」との強い危機感から重い腰をあげざるをえなかった。
「コトを起こすのであればありきたりのものではなく、夢を叶えるものとしたい」とのオーナーの希望を受け、コンセプト創りから始めた。オーナー関係者全員からヒヤリングして抽出された要望は以下のようなものだった。
①元々の緑をできるだけ残し、緑豊かな環境を残しつつもリゾートホテルのような上品な雰囲気を醸し出した建物としたい②依頼者が昔から憧れていたベーカリーショップを併設したい③地域のシンボルとなるような存在感のある建物にしたい。
その結果、前述の環境共生型賃貸マンションが生まれた。もちろん、相続税・所得税の節税やテナント誘致による収益性の向上、納税用地の駐車場としての暫定利用など資産設計として必要な対策案はすべて盛り込んである。ただ、建物にはそのオーナーのコンセプトが明確にされていなければならない。建築家が建物に命を吹き込もうとするのと同じだ。
オーナーの夢や誇りを忘れ、血の通わない数値だけを判断材料にした建物は永い時を生きていくことはできない。
④不動産コンサルタントとして
不動産コンサルタントやFP(ファイナンシャルプランナー)は資産設計の総合コーディネーターである。最大の活躍の場は,計画を実行するにあたり発生する問題や課題の解決である。以下に本事例で発生した問題や課題とその解決策を紹介する。
ア.相続対策では、残す土地と保有を諦める土地と、活用する土地に分ける。
諦める土地は先行売却して評価を下げるための賃貸マンション建設の頭金に充当
させなければならない。結果は相続税額が半分になり、残る土地は半分増えた。
イ.所得税対策としては、不動産管理会社とレストランの運営会社の二つを
設立し、所得移転と分散によりオーナーの所得課税を半減させた。
ウ.店舗の明渡し対策は、立ち退き専門の不動産業者と弁護士によって解決した。
エ.土地の確定については地積更正を行い面積確定後、固定資産税の更正によって税金の還付を受けた。
オ.土地の売却については、提携不動産業者を通じ「売れ払い方式」により希望価格での売却を実現。
カ.差別化のためには、プロのランドプランナーや照明プランナーを充て、街づくりに成功。
キ.オーナーの親族間のコミュニケーションづくりには、各種セレモニーや建物見学ツアーを実施。
ク.近隣対策は最初から街づくりをアピールすることにより近隣の同意を取り付けた。
ケ.複数の相続人の了承に対しては、財産分与を予定した公正証書を作成した。
コ.資金繰りについては、店舗運営の資金も含め、地元金融機関から最優遇金利での調達を行った。
⑤専門家のコーディネート
これら数多い問題や課題解決はコーディネーター自ら行うものもあるが、大半は専門家に依頼、業務を代行してもらった。幸い本案件は依頼者が自ら積極的に動いて解決してくれたので大変恵まれた。もっとも、本来コーディネーターはあくまでも支援者であって、オーナーへの適切な情報提供が仕事だ。最終決定はオーナーの仕事である。
オーナーから意見を求められたときにはじめて自分の意見を述べるのが良いだろう。本事例はオーナーとコーディネーター・設計事務所およびゼネコン・税理士・弁護士・土地家屋調査士・司法書士・銀行・不動産業者・ランドプランナー・照明プランナー・賃貸管理会社・店舗設計士などがコンセプトを共有しコラボレーションすることによって創り上げることができた。
⑥遺言書の薦め
これだけの開発を行うと当然、大きな借金を抱えることになる。消極財産の相続は揉める要因にもなるので、遺言書をつくっておくほうが安心だ。とりわけ、本件では兄弟姉妹の相続になるので後継者問題もからみ揉めがちなケースだった。
そこで、公証役場に行って公正証書遺言を作っておくことにした。実は一度遺言書はつくってあったが、「兄弟姉妹3人に相続する」というような曖昧なものだった。顧問弁護士を通して作成した新しい遺言書では、大半の資産を姪の依頼者に遺贈するという内容にした。
⑦姪に遺贈して相続飛ばし
それだと兄弟姉妹の相続分が無くなってしまうわけだが、兄弟姉妹も高齢者で、いずれ近いうちに相続が発生するとも限らない。相続税は何度も払いたくはない。一人の姪へ大半を遺贈するということは相続税の2割加算となるが、それでも2回の相続よりは節税になる。2割加算を避けるために、姪を養子縁組するということも考えたが、法定相続人8人全員への説明も大変だ。
相続人が1人になると相続税の基礎控除が減り、一旦法定相続で計算する日本の相続税の計算では相続人が多ければ多いほど税金が少なくなるしくみになっているが、結果的には2割加算されても1回の相続で済む遺贈のほうが有利であると判断した。
ただ、通常は遺留分の問題が発生する。法定相続人は遺言書の内容にかかわらず一定の割合で相続する権利を主張することができるからだ。ところが、兄弟姉妹の相続ではこの遺留分が適用されないということもあり、養子縁組ではなく遺贈を選択しても問題はなかった。
⑧収益対策としてのアパート建築
コンセプトマンションの建築によって、約12億円の相続税が約6億円に下がったことで節税目的は達成したが、収益力に乏しい点が問題だった。
1Kの高級賃貸マンションは建設費が一戸1,000万円、普通のアパートの場合でも一戸500万円くらいかかる。一戸1,000万で家賃が8~9万円。アパートなら一戸500万円で6~7万円だ。当然アパートのほうが投資価格は少なくて、利回りが高い。
そこで次に行なったことは、収益対策としてアパートを2カ所、150坪の敷地に建てたことです。一つは木質3階建ての共同住宅、もう一つは木質2階建てアパートにした。地型や道路付けなどを考慮して、最も効率良い建物を建てた。
建築費を年間の家賃総額で割ると14%の高利回りなので、まあまあの収益性となった。この2棟のアパート建築によって収益力が増したのはもちろん、相続税のシミュレーションが約3億円になった。当初から比べると約9億円の節税だ。この間に土地価格が下がり路線価が下がったことも大きく税金が下がった理由ではあった。
■Uさんの感想
まずは相続対策
今から思うと、コンセプトマンションに少しお金をかけすぎたのかなあと思っています。どちらかというと相続対策というのが一番の急務だったので、結果的には借金をしなければと思ったわけです。かなり広い土地を貸家建て付け地にして、それから上にも建物を積み重ねないと駄目かなあと思いました。
もうひとつの大きな目的は畑を残すことでした。やはり、(親族の)お年寄り達は畑が大好きで、というよりも畑がないとここにいる意味がないのです。地主とはそういうものなのです。相続対策と畑を残すこと、その2つが目的でした。
本家としてのプライドも
私は子供の時から「○○家は、昔はねえ」という言葉をよく聞きました。私は竹やぶかジャングルみたいな敷地しか見ていないので、どこがそんなにすごいのだろうと思っていました。ただ母には、先祖代々から引き継いできたここの土地を守らなければと聞かされていました。跡継ぎがいないということも言われていました。そのせいか、無意識のうちにも昔からの木はいっぱい残しておきたいという気持ちがありました。
地主である祖母の意見は
祖母は自分の意見をあまり言わなかった人です。ただ、コンセプトマンションの竣工式のときも、自分の家が出来たときも、「いいね、いいね」と喜んでいました。ある意味、一番気持ちが安らいだこの10年ではなかったでしょうか。
私に資産管理をまかせてからは、わずらわしいことは一切やらなくてもいいし、自分のことも面倒見てもらえるわけですから。
資産管理に力を入れています
その資産管理に私は最も力を入れています。現状はかなり低い借り入れ利率になっていますが、将来上がることも想定しておかなければなりません。ですから空室率が上がることはさけなければなりません。今はまだほとんど0に近いのですが将来の不安はあります。そこで、結構修繕費の投資もしています。
浴室乾燥機を全室に入れました。最近は治安が悪化しているのでダミーだった防犯カメラも全部本物に変えました。人目につきやすい扉の横のボックスなどはもう塗り替えています。常に新品に見えるようにしておこうと思います。
◆投資用賃貸マンションを購入後、相続税納税用地を先行して売却
その後の展開は・・・
①攻めの相続対策、投資用マンションを購入
資産管理を任された依頼者は、投資用マンションを購入してさらなる攻めの相続対策を考えた。すでに自用地は畑以外すべて建物が建っている。そこで、土地の担保力を活かし、別件担保を提供し、ほぼ全額ローンで投資用マンションを購入することにした。
今まで自分の土地を活用することは考えたものの、土地も建物も購入して投資することなど頭では分かっていたが、そこまでの勇気はなかった。
しかし今なら金利は安いし、利回りの良い手ごろな新築の賃貸マンションが見つかったので購入することにした。
毎月約100万円の収入になる。毎月のローンの返済が約70万円。維持管理費が約15万円なので、差し引き毎月15万円残るという収支だ。節税額は約5,000万円になる。あまり、儲けの多い投資ではないが、新築で東京都内に資産を持つことができ、節税になるので悪い話ではない。将来的には売却することも出来る。
②先行して土地を売却して相続税の納税資金を確保する手もある
次なる対策は相続税の納税対策だ。通常は相続が発生して、遺産分割協議書を作成してから土地を売却する。しかしその場合、時間がかかるうえ、良いタイミングでなければマンション用地として高く土地を売却することはできない。時間切れでマンションディベロッパーに安く買い叩かれる恐れもある。
マンションディベロッパーは市況の良い時は郊外でも思ったより高値で土地を購入してくれるが、市況が悪くなると急速に郊外から手を引き、都心に集中するようになる。しかもある程度の規模の土地でなければマンションディベロッパーには相手にしてもらえない。
そこで、前もって400坪の敷地を測量してから分筆し、駐車場の借主に明渡しをしてもらうなどの準備を始めた。駐車場の売却資金の半分は相続税の納税資金とし、一部は不動産投資の頭金とし、一部はコンセプトマンションの大規模修繕費に取っておこうと考えたからだ。
③祖母の相続発生
先行して相続税の納税用用地を売却しようと準備していたところに、祖母が亡くなった。大往生であった。
遺言書の執行やら、相続税納税の準備やら目まぐるしい日々が続いた。幸い遺言書があったために表立った問題はおこらなかった。それでも農地転用手続きや不動産の名義変更、借金の免責的債務の引き受けなどすべきことは沢山あった。
納税できるほどの現金がないので、約400坪の土地を売却することにした。幸い売却の準備をしていたので、すみやかにマンションディベロッパーに希望価格で売却することができた。環境に配慮しながら街づくりをしてきたので、購入するマンションディベロッパーにも同じようなコンセプトで開発してもらうことを約束し、土地の売買契約書の特約に盛り込んでもらった。
④結果
相続税の試算は約12億円から2億円弱までに引き下げることができた。そのため売却する土地は約400坪で済み、大切な畑は十分に残すことができた。
相続税を支払い、譲渡税を支払ったとしても手元に現金が残る。有効活用や不動産投資で増えた借金はなるべく早く返済したいので、「内入れ返済」することも検討中である。
ある程度の土地を売却して頭金をつくり、借金して賃貸マンションの建設、アパートの建設、賃貸マンションの投資を行ってきた。トータル9年という歳月を要したが、初期の目的は十分達成することができた。資産の組み換えが相続対策にも有効であることを証明した事例である。
■Uさんの感想
生前に売却の準備をしておいて良かった
「これからマンションはますます都心志向が強まる」という福田さんの薦めが効きました。千葉県内では不安という思いが募り思い切って都内にも投資しました。それから組み換えにはタイミング重要だということも痛感しました。
もし、祖母の相続が半年遅れていたら、果たしてマンションディベロッパーはあの土地を買ってくれていたでしょうか?
女性にとって資産を引き継ぐと言うのは大変なこと
女性にとって資産を引き継ぐと言うのは大変なことだと思います。主人のサポートがなければ出来ませんでした。やっぱり気苦労ですかね。何が大変かと言われると困りますが。
指南役に恵まれました
我々が幸運だったのは、福田さんという良いコンサルタントに恵まれたことです。ほかの士業の人達や専門家の人達のマネジメントも出来なかったわけですから。
結局、素人では自分たちが進むべき方向性というのは見えないと思いますね。対症療法的な対応はできても、中長期の対処は難しい。このタイミングでこうすべきなのかなぁと分かっていても、実際にそのタイミングでスイッチを押すことはできません。
私達の立場から総合的にアドバイスしてくれる専門家が必要なのです。銀行や信託銀行は金融的な見方しかしませんし、切り口もまたそれぞれ違いますからね。