東京都大田区田園調布3丁目のYさん


<【前段】事業を拡大発展させるための組み換え>
 ◆中央区の倉庫を売却し、港区にある本社ビルの隣地を購入。そこに倉庫・事務所・賃貸住宅の複合ビルを増築

 依頼者は・・・
 Yさん65歳。酒卸業、不動産貸付業、大手飲食業チェーングループを運営。依頼者の父親は戦前、広島から上京して酒卸業、不動産貸付業を開始した。その後、都心の駅前立地限定で飲食業のチェーン展開を始め、直営店120店舗を上回るまでに拡大させた。店舗は常に時代の変化に対応できるよう業態変化を重ねつつ長期に亘る運営を続けている。

 資産内容は・・・
 東京都中央区に1,2階酒類卸・倉庫兼上階賃貸オフィスビル。
 東京都港区にオフィスビル(1,2階自社使用)。
 東京都大田区田園3丁目に邸宅(一部自社使用)。
 その他、都内の駅前店舗やマンションを法人名で多数所有している。

 依頼者の要望は・・・
 ①港区の本社ビルの隣地が売りに出ているので、購入して有効活用がしたい。
 同時に中央区の酒類卸売と倉庫機能を本社ビルに移転させたい。
 ②父親の相続が発生したので、二次相続対策も含め田園調布の邸宅の有効活用を提案してほしい。同時に田園調布の事務所機能を港区の本社ビルに移転させたい。


 実際の展開は(前段)・・・


 ①隣地を購入するのは得策
 本社の隣地が売りに出ていたので購入することにした。そこは前面道路が12mで間口が狭い土地だったため、活用が難しく、相場より安い価格で購入することができた。具体的には、その土地単独だと道路斜線の関係やプランニングの制約があり、法定で700%の容積率があるにもかかわらず、400%程度しか使えない。ところが、本社の土地と併せると間口が広くなり、プランニングも良くなるので利用価値が高まることは明らかだった。

 ②増築という手があった
 それでも前面道路が12mなので道路斜線の制限を受け、高さに制限がかかる。そこで、本社を増築するという手段をとることにした。増築の建築確認を申請すると道幅の広い表道路(国道)が接道することになるので、高さ制限を受けることがなくなる。その結果、10階建てのビルが建てられるようになり、容積率700%をまるまる消化することができた。
 地続きの隣地を購入するとメリットがあるという話は良く聞くが、このように実質的に容積率がアップできたのは増築の確認申請という手法に気がついたからである。実は増築といっても、ほんの一部を通路でつなげるだけだが、それで独立した一棟のビルとみなしてもらえる。
 ただし、増築のデメリットもある。ビルの既存部分も現在の建築基準法に適合させなければならない点だ。今回は駐車場、駐輪場、管理人室、避難通路、ゴミ置き場、緑地、消防について区役所と協議しながら現法への適合を図ることにした。
 最も苦労したのは消防だった。既存ビルの防火区画の取り方やエレベーターの防火仕様を変更しなければならなかった。また、火災報知機も既存ビルと新築する複合ビルを連動させなければならないという。新築ビルの入居者が誤報を起こすたびに既存ビルのテナントにご迷惑をかけるという事態が想定された。
 また、電気と水道を新たに引き込みたかったが、当局から「原則として一つのビルには一つしか引くことができない」と拒否されてしまった。説明を繰り返した結果、最終的には電気と水道を新たに引くことができインフラも独立させることができた。

 ③設計コンセプト
 建物の設計で大切なのが設計コンセプトである。単にボリュームをとり、デザインをするというのでは物足りない。汐留の再開発地区の隣接地でもあったので、開発コンセプトを「汐留土地区画再開発計画との相乗効果を図る」とし街並みの統一感をめざすことにした。
 そのうえで、三つの設計コンセプトを定めた。
 一つ目は「土地の最有効利用」。前述したように、増築によって申請容積率700%を使い切り、道路斜線の制限をクリアーするということ。
 二つ目は「快適性」。既存倉庫と作業場および既存事務所とのつながりをスムーズな動線とすること。
 三つ目は「街づくり」。既存ビルも新規のビルも、どちらの通りから見ても統一感のある建物の顔を作っていくこと。
 具体的な設計提案として以下のような計画を盛り込んだ。
 ア.賃貸部分は全室南面プランにする。
 イ.立地が良いので部屋の広さよりも、戸数をなるべくたくさん取る。
 ウ.エントランスの間口は思い切って取り、豪華さを演出する。
 エ.1階から3階までと、9階・10階に見切りと化粧柱を設けイタリアン風の外観デザインとする。
 オ.屋上庭園を建物の真ん中に配置する。
 カ.オートロック、宅配ロッカーなど賃貸住宅の募集をしやすくコストがかからない設備を装備する。
 キ.一般的には鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)になる建物だが、プランニングをシンメトリーにして、建物の重量バランスを取ることによって鉄筋コンクリート造(RC)で建築することを可能にし、コストダウンを図る。
 ク.自社使用するのは1階から3階までとし、外部からの侵入ができないようにする。
 収益性とデザイン性のバランスを程よく取り、入居者にも近隣にも喜んでもらえる建物とする。

 ④土地代・建築費は売却資金で
 土地代・建築費は借金をして手当てするケースが多いが、依頼者のYさんは中央区の酒販兼倉庫ビルを売却することによって捻出した。同ビルの賃貸収入は無くなるが、新規で建てるビルの収入と比較すると得策と考えたからだ。
 もちろん、借金をして建築をすることもできるが、ビルに投下した資金を回収するには本業の商売と違って時間がかかるからだと判断した。
 あえて無理な借金はやめて資産の組み換えにしたのは、安定経営と本業を優先させるためでもあった。

 ⑤無借金経営の複合ビル完成
 こうして、10階建ての複合ビルが無借金で完成した。1・2階には中央区にあった倉庫機能を移転させ、3階は田園調布の自宅の一部にある事務所機能を移転させた。4階以上を27戸の賃貸マンションとしている。
 同時に既存ビルの自社使用部分も改装、新しい事務所に生まれ変わった。
 これで、本社機能が一カ所に統合できたうえに、平均坪賃料が1.5万円を超える高利回りの賃貸収入を生むこととなった。銀座が徒歩圏なので賃貸マンションは入居者が絶えることはない。街並みにしっくり溶け込んだ計画通りの複合ビルが完成した。
 もちろん、中央区のビルの売却益は買換特例を活用したので、譲渡にかかる税金は繰り延べされている。

 ■Yさんの感想
 あえて資産の組み換えにしました
 私は今回、借金ではなくあえて、資産の組み換えという方法を選択しました。理由は、不動産賃貸とか酒屋の仕事というのは長期的な投資になり、銀行から借金をしても短期に返済できるものでないことがよく分かっていたからです。
 チェーンでやっている飲食業は5年から7年で返済が可能ですが、不動産賃貸業は回収に永い時間が掛かります。20年ぐらいの回収期間がかかるのではないでしょうか。
 ですから、欲しい物件があるときは借金をしないで済む資産の組み換えで取得すべきなのです。もちろん売却することになる建物にも賃料収入はありますが、どちらが得かを計算すればいいわけです。

 買換特例が使えて良かった
 中央区の倉庫は法人で所有していたので、単純売却だと法人税が大変でした。買換特例を使って税金対策も非常に上手くいったケースだと思います。それと港区での卸しの免許がタイミングよく取れたことが良かったと思います。

 賃貸マンションを主体にして良かった
 新築したビルの主体を賃貸マンションにしたのは住宅の方が、需要が安定し長続きするだろうと思ったからです。オフィスだと景気に左右され空き室が出る可能性がありますが、銀座に歩いていける賃貸マンションというのはあまりないでしょうから、むしろ絶対そうすべきだと。一も二もなくその提案に同意しました。南向きで日当たりはいい。しかも、運よくその前だけ視界が開けているので新幹線も見られます。運のつき過ぎかもしれません。


実際の展開、後段は・・・