東京都中央区のTさん


<中小企業のリストラを成功させた資産の組み換え>
 ◆松戸市の工場を売却して借金を返済、新たに工場と賃貸マンションを購入

 依頼者は・・・
 Tさん62歳。当初は東京都中央区で、大手造船会社の下請けを行っていた老舗機会製造業の代表取締役。その後、千葉県松戸市の工業団地に本社を移転し、職人の技術を活かした工作機械を製造している。近年中国との競争もあり厳しい状況下にある。メイン銀行から借金の返済を暗に求められている。
 幸い松戸市の工業団地の土地は広いのでこの際、土地の一部を処分して経営を再構築しようと考えていた。

 資産内容は・・・
 土地が約1,100坪。工場面積が約450坪。
 その他に先代が東京都中央区に約50坪の個人資産(元本社)を所有している。

 依頼者の要望は・・・
 ①松戸市の工場用地を一部処分して、銀行へ借金を返済したい。
 ②あるいは先代が所有している東京都中央区の土地を売却してもらい、先代からお金を借りて銀行へ借金を返済することはできないか。
 ③その際の土地譲渡による税金が心配である。税金対策も含め提案してほしい。

 コンサルタントから見た課題は・・・
 ①松戸市の工場用地は比較的規模が大きく1,000坪以上あるため、工業用地としての資産価値は高いが、半分に切り500坪にするとなると資産価値が目減りしてしまう。
 ②半分に切って売却するよりも、むしろ一旦すべてを売却して、近隣に縮小した工場を買う方が手元に残る資金は多くなるだろうが、その場合果たしてそのような都合の良い工場が見つかるだろうか。
 ③東京都中央区の土地は約50坪と小さく、前面道路も狭いため規定の容積率まで使えないので、期待するほど高くは処分できない。
 ④譲渡したときに発生する法人税を圧縮するために、買換特例をフルに活用したいが、そのためには売却した金額と同等の金額の資産を購入しなければならない。その場合、また新たな借金をしなくてはならない。


 実際の展開は・・・


 ①不動産コンサルティング業務委託契約を締結
 依頼主の顧問税理士がコンサルタントとして私を紹介してくれたため、コンサル業務委託契約をすぐに締結することができた。その内容は資産の組み換えコンサルティング業務とした。
 資産組み換えの企画、売却の代理業務、購入の代理業務、有効活用・その他を付帯する業務とした。報酬となる業務委託料は成功報酬制とし、宅地建物取引業法の報酬を超えない範囲とした。

 ②三つの企画案を提示
 《 提案1 》
 中央区にある先代の個人の土地を処分し、そのお金で先代に松戸の工場用地の一部を購入してもらい、そのお金で借金の一部を返済する。また、松戸の工場用地はその約半分を売却し、その売却資金と若干の借入金で船橋の賃貸マンションを1棟(ネット8%の利回り)購入して、事業用資産の買換特例を使いながら、会社に不動産収入をもたらす。

 《 提案2 》
 松戸の工場用地全体を売却し、同じ工業団地内にある別の工場を購入する。借金返済後の残金で、中央区の先代の土地を借りて賃貸マンションを建設し賃料収入を得る。
 買換特例をフルに活用するため、会社の近くの賃貸マンションを全額ローンで購入する。

 《 提案3 》
 松戸の工場用地全体を売却、工場は近くに借りることにする。借金返済後の残金で、中央区の先代の土地を借りて賃貸マンションを建設して賃料収入を得る。買換特例をフルに活用するため、都心のビルを購入する。

 3つの提案にはそれぞれ一長一短があるので、数値でシミュレーションをした。つまり、買換後の資産規模、年間のネット収支、借入額、ROA(総資産利益率)、メリット・デメリットをそれぞれ比較検討した。

 ③提案2に決定
 最終的に提案2をベースに考えて行くことにした。基本方針として、本業の工場経営が一番スムーズに出来ることを優先したからだ。
 提案1の場合は、工場用地の半分強を売ってしまうことになるので、工場の面積がかなり小さくなり、工場経営に支障が出る。提案3は工場を借りるのですが、そうした都合の良い工場を探すことは大変だし、賃料の負担も大きい。手取り収入も少なく、ROAも一番低かったため除くことにした。

 ④売却と購入を同時に
 工場はつねに動いているものなので、「資産の組み換え」のために止めなければならない時間を最小限にする必要があった。
 松戸の工場用地の買い手は東京の不動産業者がタイミングよく見つけて来てくれた。業績が拡大傾向にある製造業者だった。たまたま、沿線の線路の拡張によって立ち退きをしなくてはならず、莫大な保証金が入ってくるとのことだった。そのため買主に余裕があり、近隣相場よりも高くても良いから是非購入したいとの意向だった。
 問題は購入の方。工場募集の図面を作り、工場の仲介が得意な不動産業者に情報の収集を頼んだ。物件は色々出てきたが、立地・面積・クレーン等の設備面や価格が折り合わず、簡単に見つからなかった。松戸市にこだわらず千葉県全体に候補地を広げてみたが、うまくいかなかった。買主を待たせていたので、悠長に探しているわけにもいかなかった。
 そうしたとき、松戸市の同じ工業団地内の工場で不良債権による任意売却の話が出てきた。立地もよし、設備もよし、価格もよしとなったが、面積が小さく外から見た見栄えが今ひとつだった。そのため、いったんは断わったものの、他を探してもなかなか見つからないことは分かっていたので、念のため工場の中を見せてもらうことにした。
 すると中は意外に広く、綺麗で、工場内に事務所を作り変えれば稼動できそうなことがわかった。早速、工場の改装や事務所設置の見積もりを取ってみると予算内で収まることが分かった。そこで、待っていた買い手には売渡承諾書を、新規工場の売主には買付け証明書をそれぞれ交付して話しを前に進めることにした。

 ⑤買換のスケジュール
 平成17年10月に旧工場の売買契約を行い、引渡しは平成18年3月とした。この引渡日までに新しい工場を購入して改装し、事務所も設置して引越しをすることにした。新工場購入の売買契約は、旧工場売却契約の一週間後に行った。
 新工場の引渡を受ける日は平成17年11月とした。銀行に事情を話し、売却までのつなぎ的な融資を受けた。
 11月に決済を行い、大急ぎで改築と事務所を工場内に設置した。平成18年3月ギリギリに引越しを終え、旧工場の決済も行うことができた。買主の協力があり、銀行のつなぎ資金が出たことが買換実現のポイントとなった。

 ⑥買換の結果
 売却金額に対し取得費用は改築費用なども含め約半額で済んだ。土地の面積は約半分となったが、工場面積はほぼ同じ。むしろ、今までは第一、第二、第三と別れていた工場が一つに集約されて使い勝手が良くなっている。
 売却代金と取得代金の差額で、十分にメガバンクへの借金が返済できる。残った資金でさらに買換を行えば譲渡税の圧縮が可能となる。

 ⑦譲渡税のシミュレーション
 旧工場の簿価は極めて低いため、売却による利益が発生する。法人所有の土地なので法人税がおおよそ42%かかってしまう。そのために、旧工場を単純に売却しただけでは、利益の半分近くが税金で持っていかれてしまう。そこで、買換特例を活用するため新工場を購入。それによって税金を半額にすることができた。
 ただ、それでもまだ法人税が発生するので、工場のリストラを機に役員のリストラも行い、退職金手当てを出し、その他の損金も膨らますことにした。
 更に税理士とも相談し、あと1億5000万円程度の買換資産を購入することにした。そうすることによって、ようやく法人の買換特例をフルに使うことができ税金を80%圧縮することができた。

 ⑧収益不動産の購入資金を捻出
 約1億5,000万円の収益不動産を購入するためには資金が必要となった。旧工場の売却で手元にお金は残ったが、運転資金のために残しておくことにした。そこで、株式会社日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)から固定で低金利の融資を受けることにした。
 融資を受けるためには障害があった。収益不動産は収益力があるので何ら問題はなかったが、本業が赤字になっていたので、黒字にしていく計画を公庫に示さなければならなかった。
 そこで当社が依頼主からヒヤリングをしながら黒字化対策をまとめた。経費の削減と、売上の拡大に分けレポートを作成して株式会社日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に提出した。
 その結果融資を受けることができた。しかし、それでもまだ購入資金が足りなかった。運転資金を充てるわけには行かないので、先代の中央区の土地を処分し、売却で得た資金を会社が借りることにした。

 ⑨中央区の土地を処分
 この土地は駅に近かったが、面積が50坪と小さく、かつ道路幅が狭いので容積率一杯の建物が建てられない。ワンルームの分譲会社に相談を持ちかけたが、案の定、どの会社からも規模が小さいということで断わられてしまった。これでは入札をかけることもできない。
 そうした折、私が以前勤めていた会社の取引先だった建築会社が購入したいとの朗報が入った。ワンルームマンションを建てて転売するとのことだった。
 早速、売買契約を締結した。

 ⑩先代が認知症に
 先代はすでに90歳を超えている。認知症にかかり本人の意思確認ができない
 状態となっている。やむを得ず、成年後見人制度を利用することにした。大急ぎで必要書類を取り寄せ、家庭裁判所への申立書の準備をした。
 その書類の膨大さには驚かされるとともに辟易した。まるで相続が起きたときのような書類の多さだった。財産目録を作り、その裏づけ資料を全部添付しなければならなかった。更に収支報告書を作って、本人の生活がなりたっていくことを証明しなければならない。あたかも法人の貸借対照表と損益計算書を作成するようなものだ。その上に後見人は定期的に収支を裁判所に提出しなければならない。
 当社は資産家の財産目録や相続税の試算などには手馴れているのだが、それでもやはり面倒臭い。裁判所への申立書は弁護士に作ってもらい提出してもらった。後見人である本人が直接申立書を提出することもできたが、今回は時間がないので弁護士が代理人として申立てをすることにした。
 3カ月ほどで家庭裁判所の審判がおりた。同時に東京法務局の成年後見選任等登記が申請され登記も完了した。これで売買契約も決済も成年後見人ができるようになった。買主さんにはこの間待ってもらうことができ幸運だった。

 ⑪市川の収益マンションを購入
 中央区の土地売却資金と株式会社日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)からの借入金などで市川市の賃貸マンションを買うことができた。駅から徒歩4分、鉄筋コンクリート造で築年数が11年程度と比較的新しいことが魅力だった。地下鉄で日本橋までがたったの17分。都心への利便性が高いこと、旧所有者がリフォームを施し綺麗にしていたことが購入を決める要因となった。
 主な購入目的が買換特例の活用にあったので、このマンションで利益を上げることはあまり考えていない。株式会社日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)の返済年数も、先代からの借入の返済年数も短くして借金を早く返していくことにした。

 ⑫最終的には
 売却した資産は旧工場と中央区の先代の土地。購入した資産は新工場と市川市の賃貸マンションということになった。結果、メガバンクからの借金はすべて返済した。
 事業用資産の買換特例を活用することによって、譲渡に伴う法人税を繰り延べることができ、譲渡時に法人税は発生しなかった。資金繰りに悩む日々から解放され、新しい工場と事務所で再出発することができた。
 幸い、本業も順調に進んでいるようで、Tさんに笑顔が戻った。

 ■Tさんの感想
 資産の組み換え前は本当に苦労していた
 買換をする以前は、本当に苦労していました。夜も寝られない日々が続いていました。月が変わる度に銀行から返済の催促があり、参りましたね。なにしろ、毎月200万円以上の返済をしなくてはならなかったのですから。金利負担というのは大変なものです。
 借りていた金額は億を超えていました。そこから抜け出すことができたことがなによりでした。毎日の仕事に追われ、まだ今回のことを振り返っている余裕がありませんが、いずれゆっくり考えてみたいと思っています。正直今は、借金という錘から解放されてほっとしています。

 プロの後押しがあったからこそ
 あの頃はいろいろと悩んでいました。工場を半分売ろうか、それとも全部売ろうかと。結局、不動産に関して素人のわれわれは重要な判断というものがなかなか出来ません。それは情報がないし、あってもそれを判断する材料がないからです。やはりプロの方が見ていいだろうという後押しがなければ決断は難しいと思います。
 あの頃は会長が体調を崩して相談もあまり出来ず、ほとんど事後承諾という形でことを進めていましたが、プロを信じて前向きに考えをまとめていった事が良い結果を生んだと思います。

 ワンフロアーが広い工場に移って
 こちらに移ってから本当に思うのですが、こういう商売はやっぱり広い器がないと仕事が出来ませんね。ここはたまたま広くて良かったと思います。よく同業者から羨ましがられます。「Tさんの工場は大きいからいい、何でも出来る」と。大量の受注を受けたときでも、部品を外注し出来上がってきたらそれらを工場に並べておいて組み立てて行くわけですが、それは広い場所がないと絶対出来ないことですから。