東京都新宿区のAさん
<中小企業のリストラを成功させた資産の組み換え>
◆老朽化した自宅・事務所・倉庫・店舗・賃貸住宅の複合ビルを売却し、借金を返済後、新築マンション二世帯と商業ビルを購入
依頼者は・・・
Aさん45歳。メガバンクからの紹介だった。新宿で飲食の卸業を経営。12年前、父から経営と資産管理を任されるようになった。事業で膨らんでいた債務をリストラや賃貸収入の増収によって解消。債務超過から脱却した時点を見計らい、複合ビルを売却して借金をすべて返済したいと考えていた。
資産内容は・・・
父親所有の土地が約200坪。建物は約1,000坪の複合ビルで父と法人が所有していた。自己利用としては父親宅、姉宅、弟宅、会社の事務所そして卸業のための倉庫だった。ほかに賃貸用店舗5件、賃貸住宅2DK35戸を所有。借金 は8億円だった。
組み換え後の資産は・・・
父親宅用に新宿区の新築賃貸マンションを購入。姉宅はこの新築賃貸マンションを父親から賃貸。弟にはマンション購入資金の頭金として現金を渡す。会社の事務所と、卸業のための倉庫は、建物を売却後にリースバックしている。
店舗5件と賃貸住宅2DK・35戸の複合ビルは売却し、その資金で土地約60坪、建物約250坪の駅前商業ビルを購入。借金は新規のメガバンクから2億円に減少している。
依頼者の要望は・・・
①なるべく高く売れる売却方法を提案してほしい。
②メガバンクからの借り入れを一旦、全額返済したい。
③複合ビル売却後の父・姉・弟の住む場所を確保してほしい。
④会社の事務所と卸業で使用している倉庫をリースバックしたい。
⑤父が所有する土地を売却すると譲渡税がかかるので事業用資産の買換特例を使いたい。
⑥住み替えと、買換先は新宿区内がいい。
⑦できれば買い換えた場合も複合ビルが良く、家族の住まい・事務所・倉庫等は一緒がありがたい。土地から購入して建てても良い。
実際の展開は・・・
①売却までの経緯
築32年も経った老朽ビルだが建築した時の借金と、その後の事業資金として借りた分も合わせると12年前には15億円に膨らんでいた。当然債務超過となっていた。
依頼人が父親から経営のバトンタッチを受けたのはこの頃である。依頼人はビルをすぐにでも売却したかったが、債務超過で売っても借金が残るため、売るに売れなかった。そこで社員のリストラを行い、ビルの自家使用している部分の賃貸化を進めた。
そのために1・2階の店舗部分の区割りを細かくし、賃料を上げた。その結果、年間6千万円だった賃料収入が1億円を超える賃料収入に生まれ変わった。その後の10年間で借金を7億円返すことができた。
今から2年前には8億円まで借金を減らすことができ、売却しようと思ったが8億円ぐらいでしか売れないとのこと。譲渡税を支払うと赤字になるので中止した。
昨年、福田財産コンサルが正式に資産組み換えの依頼を受託した。
②老朽ビルの販売戦略
収益力はあるものの、建物が老朽化しテナントや入居者は外国人がほとんどなので、敬遠されがちなことが判っていた。そこで、徹底的に情報をオープンにし、買主に安心感を与えることが必要と判断した。そのため建物調査報告書を調査会社に依頼して作成。調査項目は、遵法性・緊急修繕更新費用・中長期修繕更新費用・建物の有害物質含有調査・土壌汚染・地震リスク調査など多岐にわたり、物件の透明性をアピールした。
更に透明性を確保するため、賃貸借契約の中身も可能なかぎり明らかにした。
賃料・共益費・保証金・保証金償却費・契約期間・滞納状況などをオープンにした。こうした情報を一覧にしたものをレントロールという。
買い手は不明瞭な点があると、それ自体をリスクとして捉え、物件の評価を下げる。たとえ不利な点があっても、それを明らかにし不明瞭な点をなくすほうが高く売れる。売買契約後のトラブルも少なくなる。
③3段階の売却戦略
不動産投資ファンドが購入してくれるような優良不動産なら、ファンドまたはファンドに転売する業者を集めて入札をすると高く売れる。ところが本物件は無理なので、入札をする前にプレ販売として任意売却を行なうことにした。
その際の金額は査定価格より高めにした。査定価格は不動産鑑定士の鑑定評価とした。入札の場合はこの不動産鑑定評価を最低売却にしようと考えていた。入札でも売れなければ、レインズやアットホームなど不動産業者間の流通ルートに乗せるということで3段階の販売戦略を提案した。
④買手が見つかった
平成19年の春先だったので、まだ買い取り転売業者が銀行から自由に融資を受けられる状態だった。そこでまずはそうした業者に打診してみた。さすがに、築年数や立地やテナントの問題があったので、彼らも引き気味だったが、数社の出した金額が10億円だった。しかし10億円では借金は全額払えたとしても、譲渡税を支払ったら手元にほとんどお金が残らなかった。
しばらくして、大手賃貸管理会社のフランチャイズ店の不動産業者から12億円くらいで買ってもらえそうだという情報が入った。その法人は高利回りの収益不動産を長期に保有して安定した賃料収入を得たいとのことだった。買取業者との2億円の価格差は、ちょうど彼らの転売利益に相当するものだと思われた。
早速、買主と面談して契約条件を確定させ契約した。平成19年8月に物件の引渡と決済を行った。おりしもサブプライム問題が取りざたされる前で、買主も融資を受けることができ、無事に売買を完了させることができた。
もし、これが平成20年以降だったら、不動産に対する融資が厳しくなっていたためこの価格で売却することは不可能だったと思う。あるメガバンクは今なら7億円でも買手がいるかどうかわからないと言っていた。
⑤買換特例を使い課税を繰り延べ
手取り額がいくらになるか検討した。売却代金から譲渡にかかった費用を引かなければならない。次にメガバンクにローンを一括で返済する。そこから税金が引かれるわけだが、土地の割合が高く、しかも土地は父の名義で相続していたので取得費が少なく、含み益が多い。
そこで、平成20年12月末まで適用される事業用の買換特例を使い課税の繰り延べを行なうことにした。いろいろシミュレーションしてみたが、満額適用させるとなると買い換える物件が高額となり、新たな借金が増えるので、多少譲渡税が発生しても借金をあまり増やさないという方針をとることにした。
一方、法人持分の売却益は、過去59年間の足止め出来ない不良債権や貸付金とかを一気に償却することで法人税はゼロにすることができた。会社の中身もスッキリさせることができた。
売却したのは複雑な複合ビルで、かつ所有が個人・法人との共有だった。買い換えた物件は多岐に渡り、事業用資産の買換特例や居住用資産の3,000万円控除の特例を使うのは難解だったが、依頼者が税理士と一緒に税務署に行くなどの努力をしてくれたため活用することができた。
⑥組み換え先の検討
まずは中古の複合ビルを探した。しかし、「帯に短かし襷に長し」といった感じでなかなか見つからなかった。そこで、土地を購入して建物を建築する戦略に切り替えたが、自宅用地としても賃貸ビルとしても優れた立地を探すのは至難のワザだった。いくつか現地を見てもらったが決まらない。住まいを伴うとなると見る目が厳しくなるのは当然だ。長年ハウスメーカーにいたのでそうしたことは経験的に分かっていた。
そのころから建築費の高騰が始まり、採算が合わなくなってくる心配もあった。後から考えると、やはり土地を購入しての建築にしなくて良かったと思う。建築費の高騰で着工できなかった可能性さえあったからだ。皮肉にも、土地が見つからなかったことが不幸中の幸いとなった。
結果として自宅用には新築マンションを買うことにした。幸い、売れ残りのマンションが2戸あったので、値引きしてもらい父親と姉用の2戸分を購入した。
⑦収益不動産の購入
父親からすると、所有していた不動産を処分するのは心が痛むし、寂しかったようだ。当然事業用資産の買換特例を使って新たな不動産を取得できるわけだが、それ以上に気持ちの部分が大きい。
新しく購入したのは父親の自宅から歩ける場所にあった駅前の商業ビルだった。テナントは病院、塾などの優良テナントばかりだ。築年数も新しく、今までのように多額の修繕費に悩まされることはない。ビル自体は小さくなったものの、不動産を取り戻したような気分は格別だったようだ。
ビルは競売となったものを業者が落札して商品化していたため、相場よりも安く買うことができた。地下一階のテナントが元オーナーになっている。ちょうどAさんも、売却したビルの事務所と倉庫をリースバックしているので親近感を抱いたという。
⑧資産組み換え後
依頼者にとって見れば、借金を返済することができ、銀行から無理難題を押し付けられることもなくなった。資金繰りを考える苦労から解放されたことは何よりの財産となる。
母親は新しいマイホームが持てたことに喜びを隠さない。水回りも刷新し、快適に家事ができる。また住環境が良くなり、念願だった閑静な住宅街に住めた満足感も大きかったようだ。
父親は過去の負の財産を整理できたことと、賃貸住宅の管理をする必要がなくなったことに満足している。姉は母親同様に新築マンションに住むことができるようになった。現在は父親に賃料を払っているが、将来的には相続する予定になっている。
弟は現金を貰い、それを頭金にして中古マンションを買うことができた。家族全員がハッピーとなった。資産の組み換えるという発想を持ったからできたことである。
■Aさんの感想
大変良いタイミングで売却することができたと思います。
常にアンテナを張って多くの良い情報を収集していたから、うまくタイミングが図れたのだと思います。コンサルタントの福田さんを見ていて、やはり人脈とネットワークが大切だと感じました。
私たちが今まで苦労してきたのは、資産組み換えという発想を持てなかったからだと痛感しています。あそこに100年以上も住み着いていましたから。
A家の人間としては、あそこを手放すという考えはなかったし、売却を決意してからもかなり大変でしたね。親族会議では、長男に全部相続させて思い出がいっぱい詰まった家は残した方がいいのではないかとか。そういうことをかなり話し合いました。
現に父親の兄弟4人は全員売ることに反対でした。「売らなければならない程の経営状況なのか」と責められました。要は私たちばかりが儲けようとしているのではないかと勘繰られもしました。最終的には財務状況を説明して「あなた達が全部ほしければ、そのかわり借金も全部くっ付けてやるから」という話さえしました。最後は父親に私が言いました。「今のままでは立ち行かない。死んだ人間より、これからの人間を大切にしてほしい」と。そして父親にも腹決めさせて他の兄弟を説得させました。そこが一番苦労しましたね。
大変な苦労はしましたが、それまでのビルに住みながら自分で賃貸住宅を管理しなければならないという苦労から解放されました。家賃が入らないとか、住民同士のトラブルだとか、夜中に警報が鳴って駆け付けなければならないとか、そういう精神的な負担から解放されたことは、家族全員にとってなによりのことだったのです。
現在、会社の代表権は私にありますが、父親に対しては引き続き「社長」と呼んでいます。今回の資産組み換えで、かなり精神的なストレスがありましたから、そのうえ「会長になれ」というのも酷だと思いました。上がりのポストみたいで、ちょっと可哀想でしたから。父は今でも会社に来ています。来なくてもいいんですけど(笑)、前よりも早く来ています。
私は、身軽になったので本業に力を入れられるようになりました。ライバルは不況で売上・利益が減少していると聞きますが、うちは横ばいかもしくはアップしています。今後はまた、新規事業にどんどんチャレンジしていきたいと思っています。