埼玉県川口市のNさん
<問題を抱えた不動産処理が目的に>
◆土地信託していたロードサイド店舗を売却し、駅前商業ビルを購入
依頼者は・・・
Nさん58歳。意匠設計事務所を主宰していたが、父が経営する製造業を廃業するのに伴い、不動産貸付業へと変更した。自ら環境配慮型の賃貸マンションと環境配慮型有料老人ホームを建設している。
信託銀行に任せたロードサイドの土地信託に問題が多く頭を抱えていた。土地信託とは企画から開発、テナント誘致、運営まですべて信託銀行が行なう土地活用のこと。オーナーは土地を提供するだけで、黙っていて収入が得られるとのふれ込みだったが、実際は苦労の連続だった。
資産内容は・・・
信託銀行にロードサイドの土地約600坪を信託し、建物延べ床面積約900坪の大型商業施設を開発。収支は建物のテナントから入る月額賃料が約470万円。支出は建設協力金返済が月額約200万円。これに修繕費、信託報酬、地代、税金などを支払うとトントンの状況。
信託銀行、テナント、オーナー(依頼者)の3者が常時、賃料、修繕費、管理形態などで紛争している。
組み換え後の資産は・・・
ターミナル駅前商業ビル(土地面積約70坪、建物面積約300坪)を取得。
賃料は月額約600万円。ローン返済は約150万円で収支は大幅に改善された。
土地信託と違い、テナントとの直接交渉のためシンプルでトラブルは少ない。
依頼者の要望は・・・
①テナントとも信託銀行とも問題が多すぎる。幸いテナントから購入の申し出があったので、条件が良ければ売却してスッキリさせたい。また、譲渡益が発生するので、買換特例を利用したい。
②買主側にもコンサルタントが付いている。うまく取りまとめてもらいたい。
③信託銀行との信託契約の解除や精算など不明な点を整理してもらいたい。
④買い換える不動産はできれば環境配慮型のものにしたい。
土地信託の問題点は・・・
①当初のテナントは、業績が振るわず退去してしまった。建物はそのテナント専用の間取りや設備となっていたので、他のテナントへの転用が難しかった。
②中途解約のため、ペナルティーとして建設協力金の返済は免除となったが、それが一時金として収入とみなされ、法人税のみ払うことになってしまった。信託銀行のペナルティーは次のテナントをすぐ見つけてくるという約束で安くしたが、そのテナントも一年足らずで出ていってしまい、ペナルティー減額の意味がなかった。
③次のテナントが見つかったが、1・2階だけしか借りてくれないので、3・4階が空室のままとなった。事業は信託銀行にすべて任せたはずなのに責任はすべてオーナーになっている。
④新しいテナントも近隣の賃料の相場が下がったからということで、賃料の減額交渉を毎年してくる始末。裁判をするなど精神的にも苦痛が続いた。当初の計画では家賃が上がるはずだったのに、信託銀行の提案は何だったのか。
⑤建物の法定点検の結果、是正すべき項目はすべてオーナーの負担で修繕することになった。土地信託をするときは煩わしいことはなく、お金を受け取るだけだと言っていたのは結局ウソだったのか。
⑥信託銀行も銀行の合併が繰り返し行われ、そのたびに書類の差し替えが行われた。担当者は頻繁に変わり、引継ぎもあいまいで困った。
⑦立体駐車場が古くなってきたが、大規模修繕をしない限り今後はメンテナンスを受けてくれないということになった。駐車場の賃料は僅かなので、大規模修繕するとなると採算が合わない。
⑧この立体駐車場は不用の長物なので、テナントに対し賃料を上げるか、解体するか、買取ってもらうかの選択を依頼した。
実際の展開は・・・
①解決のためにはガラガラポン
上記のように、テナント、信託会社、オーナーの間で利害が一致することなく問題ばかりが起こった。テナントからすれば、信託会社が中に入っているのでオーナーになかなか真意が伝わらない。オーナーからすれば信託したのだから信託銀行が責任をもってやってもらいたいとなる。信託銀行は間に挟まれ身動きが取れない||というきわめて不安定な契約関係になっていた。
新しいうちは修繕費も不要だし、テナントも入って、賃料も下がらないのだが、古くなれば修繕費がかかり、テナントの出入りがあり、賃料も下がっていく。それらの責任をすべてオーナーに負わせることになるのであれば、何のための土地信託かということになる。
バブル崩壊後にはこのシステム自体の持つ構造的問題が露呈したといっていいだろう。嫌気をさしたこの三者の関係を解決するには資産の組み換えしかなかった。幸いテナントは日本有数の会社であったため、テナントが購入を申し出てくれた。
価格については売主・買主双方のコンサルタントが協議しながら話をまとめていくことができた。売主と買主の当事者同士だけであれば価格をまとめることは難しかったと思う。
問題は信託契約の解除のほうだった。本来、信託契約の解除はできないのだが、信託銀行も土地信託が“お荷物”となっていたため、すんなり合意解約ができた。信託銀行からすれば渡りに船だったようだ。
買主であるテナントの要望は土地の確定測量、法定点検の指摘事項の是正、3.・4階の未使用部分の設備の点検と清掃だった。
売主としての要望は現況のままでの引渡しだった。もちろん瑕疵がある場合は売主の責任で是正しなくてはならない。買主の要望は妥当と判断したので、契約してから引渡し(決済)までの間に条件を整えた。
とりわけ自家発電設備が不良で、取り替えるだけでも約600万円もかかった。
当初、信託銀行経由の見積もりだと約800万円だったが、信託に任せたままでなく、自分で段取りすると安くなることがわかった。今までの信託銀行の修繕費の見積もりは妥当だったのかと疑問が残った。
②信託契約の解除と清算
信託契約の解除は、建物引渡し(決済)日に同時に行う。土地信託の解除と同時に一旦、建物賃貸借契約はオーナーとテナントの直接契約となり、同時にその契約を解除するという手続きをとった。
そのためには、オーナーとテナントと信託銀行3者間で、建物賃貸借契約地位承継の覚書を結び、保証金や敷金の承継について明確にした。清算項目は固定資産税、CATV関係、賃料関係、敷金・保証金関係など多岐に渡った。
信託銀行とオーナーとの清算事項は銀行勘定貸や指定金銭信託にも及ぶ。現金で預けているお金があるからだ。
この金額が以外に多くて良かったが、これだけの現金を預けていたのかと思うとその運用利息はどうなったのかという疑問が残った。幸い信託銀行の担当者がしっかりしていたので、これらの清算手続きはスムーズにできた。この担当者には感謝の気持ちでいっぱいだ。
③買換で購入した物件
買換で購入した物件は譲渡したものよりも10%強価格の高いものにした。法人の買換特例(圧縮記帳)をフルに使うためだ。
買う対象は政令指定都市のターミナル駅から徒歩2分の商業ビルにした。人の流れも多く活気がある場所だ。土地面積は従前の約10 分の1だが駅前なので価値が違いう。土地面積ではなく、そこから得られる収益や、万が一テナントが出た場合でも、次に見つけやすいかどうかが価値を決めるポイントになる。
もちろん収益は上がり、手元に現金が大きく残ることになった。
相続税評価は土地面積が減ったので格段に下がった。一部、個人所有の土地もあったので相続対策にもなった。
資産を組み換えた効果
・テナントと信託銀行とオーナーとで揉めていた関係がスッキリした。
・資産の立地が郊外から、駅前の希少価値の高いものに変わった。
・手取りなしの収支が大幅な増収になった。
・換金性が小さかった資産が、いつでも第三者に売れるものになった。
・相続税評価が下がった。
不良資産が優良資産に生まれ変わる、資産の組み換えの典型的なケースとなった。
■Nさんの感想
任せられる人が必要
資産を組み換えようという気持ちになった一番の理由は、一連の組み換えを任せられる人に出会えたことです。
土地オーナーの多くは、悩みを託せる人に出会えるかどうかが一番重要です。みんな困っています。どうしたらいいのかと悩んでいますが、信頼できる人とそう簡単に出会えるものではありません。普通は信託銀行とか、銀行の不動産部とか、知り合いの不動産会社とかになりますが、ポイントはその人の肩書きではなく、どれだけ信頼出来るかということです。
たとえば、銀行からは買換物件の案内も頂きますが、それを私のために具体的に細かくチェックして動いてくれる、そういう本当のコンサルティングパートナーはなかなか見つけるのが難しいものです。
私は福田さんの前に、信頼できる税理士さんと出会っていたことが幸いでした。私はその税理士さんを全面的に信頼していましたから、その人が「この人は」といって紹介してくれた福田さんに全てを任せることができました。
父親ではできなかった資産の組み換え
父は、思い入れのある建物で、しかも先祖伝来の土地ですから売却するのはしのびないと思っていたようです。親戚・近所に対しても気兼ねするようです。ところが、私には兄もいますし、もともと親の跡を継ぐという気持ちも無かったので、情緒的な判断はバッサリ捨て、合理的な判断として資産の組み換えをすることができました。
事業承継と同時に不動産貸付業へ転身
結果的には私が跡を継ぐことになりましたが、会社自体経営状態が良くありませんでした。資産も沢山あり、社員も大勢いましたが、その人達が本当にやる気を出してやっているという会社ではありませんでした。暢気に毎日を暮らし、休まなければそれでいいいという雰囲気の会社でした。
そこで、自社で製造することは止め、社員に独立してもらい土地建物を貸付けるという賃貸管理業へ変えていきました。やがて、そのテナントも出て行きました。その跡地に賃貸マンションや有料老人ホームを建てていったのです。
賃貸経営にも理念が必要
わたしは賃貸経営に対しても一つの哲学を持っています。不動産貸付業も経営なので経営理念がなければこれからはやっていけないと思っています。
不動産賃貸業は往々にして収益だけを追求しがちですが、それは間違っています。建物を建てて所有するということには、大きな社会的責任があります。地球上の一角を長期にわたって占めるわけですから。建物は環境負荷が大きいという自覚を持つべきです。そうした責任を自分なりに果たしていこうと思い、2,000年には環境配慮型マンションを、2005年には環境配慮型有料老人ホームを建築しました。
コストアップはありますが、将来的なリスク回避のコストだと思っています。そのコストも最初に行なっておけば小さくて済みます。環境問題は今後必ず深刻化していきますから、対策を後になってから行なおうとすればするほど大きな費用が掛かってしまいます。
それから、建物はオーナーだけのものではない。建物を使う人、そこに来る人皆が幸せにならなければいけません。気持ち良く借りてくれる人がいてはじめて、オーナーは長期の安定収入を得ることが出来ます。自分のことだけを考えていてはいけないんだろうと思いますね。
買い換えた資産について
今回組み換えて頂いた駅前資産は収益力があり評価できます。今後は私の理念に合った建物にどう近づけていくかが課題だと思っています。それを行なう楽しみが残っているという気持ちです。具体的には、あの建物が環境的にどういう要素を持っているか、どういう負荷を出しているかを調べます。
その結果、環境対策として設備投資をしないといけないと思います。それをしてこそ、私が行なっている意味があります。そいう環境対策を今後はテナントから要求される時代になると思います。そういうオーナーならテナントとして出店しますよということになるでしょう。要求されてからしているようでは経営者としては失格ですね。
もちろん、ビルの収益力を活かして出来るうちにいろいろなことをやりたいと思っています。会社としては儲けを出さない方がいいという面もあるのでね。みんなに配分出来るものがありさえすれば、後は環境配慮につぎ込んでいきたいですね、長く建物を維持し資産価値を保つ、そういうことを考えていくのが大事なんじゃないですか。