千葉県浦安市のTさん
<事業承継を見据えた資産組み換え>
◆バブル時代の賃貸マンション3棟を処分、借入圧縮後に本業の事業用資産を取得
依頼者は・・・
Tさん66歳。レジャー産業の事業経営者。不動産賃貸事業も行なっている。
地域の名士。事業は今まで順調だったが、最近は競合店が増え苦戦し始めている。子供3人にうまく事業承継と相続をしたいと考えている。事業会社の他に資産管理会社も保有している。
資産内容は・・・
約2,000坪の相続した土地を所有。以前は漁師町であったが、戦後ベッドタウンとして急速に発展した。賃貸マンション、駐車場、ロードサイド店舗、本業の事業用地などに土地を活用している。前回のバブル時に北九州市に賃貸マンションを、東京世田谷にアパートを購入した。
依頼者の要望は・・・
①子供が3人いる。長男、次男、長女で、皆30代。事業と資産を子供たちに揉めることなく承継していきたい。基本方針として、長男には事業と資産を、次男には管理会社とマイホームを、長女には現金を渡してあげたい。
②借金は縮小して相続してやりたい。
③事業も30年が経ち、曲がり角に来ている。新規事業を立ち上げたうえで、長男に事業を承継したい。
コンサルタントから見た課題は・・・
①バブル時に北九州市に賃貸マンションを、世田谷区にアパートをそれぞれ管理会社の名義で購入したが赤字が続いている。借金の返済が重たい。
②15年前に建築した賃貸マンションがあるが、家賃保証の金額が下がってきた。老朽化で修繕費が増えてきた。
③事業の売上高が減少傾向にある。毎月200万円の賃料が重たい。
④今の事業に変わる何か新しい事業を考えているが、中々簡単に見つかるものではない。後継者である長男がその気になってくれなければ、事を始めることもできない。
実際の展開は・・・
①投資物件を売却
管理会社が保有する北九州市の賃貸マンションと、東京・世田谷区のアパートを処分することにした。バブル期に高い値段で買っているので、当然簿価を割る価格でしか売れないが、幸い、個人の不動産投資ブームが始まっていたので比較的容易に売却することができた。
購入したときは金利8%、利回り2%という環境だったので、購入した時点からずっと赤字だった。値上がり期待の不動産投資は完全に失敗した。現在であれば金利2%、利回り8%の時代なので不動産投資がキャッシュフローベースで十分に成り立つ。
簿価を下回って売却することになってしまったが、資産管理会社の所有なので赤字を活かすことはできる。繰越控除制度を活用すれば、最高7年間の税金の負担を無くすことができる。
そのために、売却後は管理会社に利益をもたらすようにした。黒字になっても過去の売却損をぶつければ法人税を支払う必要はない。個人ではなく、法人で所有していたことが功を奏した。余談だが、実は金融機関がこれと同じことをしている。銀行は不良債権処理を行なったために巨額の損失を計上したが、繰越控除制度を利用しているので、その後業績を回復しても法人税を払わなくて済んでいる。
管理会社の借金がなくなったので、次男にスムーズに資産管理会社を承継することができる。
②築15年の賃貸マンションも処分
次に築15年の賃貸マンションも売却した。これもバブルが弾けてまもなく建築したので、建築費が高く採算が取れていない。その当時は家賃保証するからということで建てたが、最近になって不動産会社のほうから「逆ザヤになっているので保証家賃を下げてくれ」と言われ、やむを得ず保証賃料を下げた。
建てるときの事業計画書では賃料が上がり続けることになっていた。「話が違うじゃないか」と怒りたいところだが我慢するしかない。給湯器が壊れるなど修繕費もかさみ始め、この先大規模修繕も必要となってくるため売り時だと判断した。
親が残してくれた土地を売却するのは偲びなかったが、不良資産は早く処分して、子供に優良資産だけを残してやるべきだと説得した。
建物は鉄骨造。検査済書がない。風呂・トイレ・洗面所がセットのユニットバス。部屋が小さく、天井が低いなど多くの欠点はあったが、地下鉄東西線浦安駅から歩けるという利点もあり、最終的には希望金額以上で売れた。
売却にあたっては、新興の不動産会社数社に声をかけた。彼らはファンドや投資家に転売を行なっているので、最も高く買ってくれる可能性があるからだ。
しかし、上記の欠点があったので、物件不足と言われていたときだが、なかなか手を上げてくれるところはなかった。特に、検査済書がないとローンが付きにくいため、ファンドも腰を引くということらしかった。
事実、その後買ってくれた不動産業者はファンドへ転売ができず、また他の不動産会社へ買った金額と同等で売却したそうだ。最後に買ったその不動産業者は今、買手がいなく困っている。まさに「ババぬきゲーム」のような話である。
時期を間違えていたら大変なことになっていた。Tさんも良い時期に売却できたと喜んでいる。
③借りていた事業用土地建物を購入
2店舗目の事業用土地建物は借りて運営していた。毎月の賃料は200万円。
時代の変化で顧客が減ってきていたので、毎月の賃料の負担が重くなっていた。
そんな時に、土地建物の所有者が買ってほしいという話を持ち込んできた。
オーナーの破綻で、競売になりそうだということだった。競売になったとしても事業用の土地建物で、しかもテナントがいるので、第三者が高く買うことはありえない。そこで、テナントのTさんに購入してもらえないかという話だった。Tさんにとっては、相場より安く買えるチャンスである。
こうした不良債権付き物件を任意売却で安く買うためには、銀行の承諾が必要になる。妥当な価格についての理論づけをして、銀行に提出しなくてはならない。しかも、競売よりも少し高い価格を設定しなくてはならない。あまりにも安い場合、銀行が競売にしてしまうからだ。
そこで、当社では路線価格、地価公示価格、近隣取引事例、収益還元価格の4つの指標から価格を割り出し、査定書を作成した。テナントがいて事業を行なっているわけだから、仮に更地にしようとすると大変な補償費がかかり、実質的には難しい。そこで、収益還元法と取引事例法で出した価格を6対4で按分して算出することにした。ちなみに、収益還元法では、この物件のようにワンテナントの商業施設はリスクが大きく、しかも老朽化しているので価格はかなり下がる。
こうして、こちらが希望する価格を査定書にして銀行に提出したら、売却の許可を得ることができた。結果的にはその当時の相場の60%で購入することができた。もちろん毎月払っていた家賃よりも低いローンの支払で済んでいる。家賃は払いっぱなしだが、購入すると毎月ローンの残債が減っていくので得した気分になる。
事業会社名義で購入したので、将来事業から撤退するときでも含み益で撤退費用を出すことができる。撤退費用とは建物解体費、社員の退職金などである。
これで長男への事業承継がしやすくなった。
■Tさんの感想
早めの決断がモットー
私の性格は、先手を打って早めに対応するということです。銀行の方にも言われたことがあります。「貸し出しをすると、すぐ返されますね」と。何年も借りていることが好きではないのです。借りたそのときから、今度は返すことに向かって頑張るということです。
見切りも良いほうだと思っています。今の事業も赤字ではありません。ただ、周りに大手のライバル店が出来たことで会員が減っています。土地の価格が下がるなど環境も変わってきたので、パッと切り替えました。それがあとになってよかったことになるかはわかりませんが・・。
北九州の賃貸マンションは今だったら買い手が見つからなかったかも知れません。タイミングがよかったと思います。社会情勢や不動産市況など、全体的な動きを良く見ながら判断することが大事だと思いました。
私はまだ66歳ですが、早め早めに対策をとる理由は、早く自分がラクをしたいからです。自分が元気な内に、あとのことをやっておきたいということです。事業承継や相続対策は気力・体力が充実しているうちにやらなくてはならないのです。健康なうちなら色々と対応も出来ます。多く残そうというのではなく子供たちを幸せに出来ればという気持ちです。これまでは、最終的には税金で取られてしまっているという実態がありましたので。
家族の幸せとは
家族の幸せとは、みんなが元気で楽しく、明るく暮らせるということです。そこにお金があれば、さらに良いという感じです。相続を乗り越え、家族が幸せになるためには、お互いが納得することだと思います。事前の話し合いも大切です。
家族を皆、役員にしてしまうと事業の支配権をめぐってもめることがありますから、私は長男に集中させたいと思っています。これから、私がまだ元気なうちに、最終的には次男や長女が困ったときでも長男のところに来ればいいという世界を作っておきたいと思っています。
相続は家督相続がいい
今の一般的な相続のやり方は、兄弟がばらばらになってしまう危険があるような気がします。本家も分家も皆同じになってしまうような分け方はどうなのでしょうか。
私の家にはそういった空気は流れていないと感じています。他人の失敗事例から学ぶ事は多いですね。本家、分家の気持ちが離れると、よく裁判を起こしています。そして結局は、税金が払えなくてパンクしてしまっています。
やはり、家族の柱は残していくべきです。
次の相続対策も
今後、優良な不動産を安く買えるタイミングが来たら、今まで売却した収益不動産を買い戻すということもしたいと思います。そろそろ自分も年なので、今度は個人の名義で買って、節税も必要かなと思います。そのためには借金が必要ですが、なるべくお金を貯えておくことも必要でしょう。
優良な土地とは、商売用なら表通りに面しているということです。親が資産価値の上がるものを持っていてくれたことに今感謝しています。ですから、それを次の代へと引継いでいかなくてはなりません。
朝と晩に、先祖に対し線香をあげることも子供たちには受け継いでほしいと思います。子供たちも私のそうした気持ちは分かってくれているはずです。口で言うのではなく、互いに感じるもの、感じさせるものです。言ってしまうと価値が薄れてしまうような気がします。
私の哲学
若い頃にヘッドレベルでなく、ハートレベルでやれば生きている充実感があると教わりました。損得よりもハートレベル、感性の世界を優先して生きていきたいと思います。損得ばかりだと人間が小さくなってしまいます。人間ですから損得もありますが、自分だけが得をするという世界で生きていきたいとは思いません。
そういう面では、福田さんもすごいと思います。成功事例発表会などで成功の秘訣を惜しみなく話すということは、なかなか出来ることではないと思います。しかも、話し方が力んでいないところがいいです。人間性だと思います。正しく生きていこうというエネルギーを持っている方だと思います。
最近は本業のほうもお客様の数ではなく、お客様が楽しんでやってくれればいいなあと感じています。私の家族に対する気持ちと同じです。皆が、元気で楽しく明るく暮らせれば、それでいいのです。