神奈川県湘南地方のOさん


<相続対策と収益向上を実現>
 ◆相続発生前後に郊外の市街化区域内農地を売却し、駅前の賃貸マンション2棟を購入

 依頼者は・・・
 Oさん56歳。 長年、大手小売業のサラリーマンをしていたが、会社の早期退職制度を利用して退職。退職後は、主に資産管理業に専念。
 家族は妻と子供2人。子供は2人とも社会人になって今は独立している。母はすでに死亡。父親は78歳で農業を営む。最近、健康のことが気になり始めている。
 Oさんは長男で、兄弟は次男と三男がいる。どちらも、すでに分家している。

 資産内容は・・・
 神奈川県湘南地方の市街化区域内農地を、約1.8万㎡所有。元々、耕地整理した田畑であったが、現在は宅地化が進んできている。自らも農業を営むが自宅で消費する程度。大半の畑は近所の人々に、小作権が付かないように家庭菜園として賃貸している。
 建物はアパート4棟と、貸し店舗1戸、貸家1戸を所有。年間約2,000万円の家賃収入があるが、年間約1,000万円のローンの返済があり、固定資産税と管理費を年間約400万円支払っているので、年間約600万円が自由に使えるお金となっている。

 依頼者の要望は・・・
 ①父が高齢なので、そろそろ相続税が心配。相続税がどのくらいになるのか?果たして払えるのか?田舎なので家督相続は長男の私がすることになると思うが、揉めないようにしたい。
 ②資産管理会社を作ったが、同社に収益を移転させる方法を知りたい。現在、父の土地を借りて、その資産管理会社がアパートを建築中。
 ③既に農協の勧めで建てたアパートがあるが、駅から遠く、家賃が低いので採算が合っていない。何か他に収益を上げる方法はないか?

 コンサルタントから見た課題は・・・
 ①父の容態が急激に悪くなってきたので、相続対策にかけられる時間がない。
 ②土地が最寄り駅から徒歩20分以上なので、むやみにアパートを建ててもリスクが大き過ぎる。
 ③地価が下がっていくのに、固定資産税は負担調整措置の適用を受けているため少しずつ上昇している。現在は年間300万円弱だが、負担調整措置が終了するころには、年間600万円を超してしまう。
 ④現状では相続税の課税価格が約10億円なので、相続税は約3.8億円となる。現金はほとんど無く、土地を処分して納税するしかない。その場合、処分に必要な土地面積は約2,000坪(6600㎡)になる。
 ⑤相続時に土地を売却するにしても、駅から遠いので簡単に売れるとは思われない。
 ⑥依頼人は良く勉強しているので「資産組み換え」の必要性は理解しているが、はたして父親、奥様、2人の兄弟の理解が得られるか。


 実際の展開は・・・


 ①顧問契約を結ぶ
 Oさんと顧問契約を結び、月二回の定例ミーティングを行いながら、1年がかりで対策案をつくり、順次実行に移していくことにした。顧問料は毎月10.5万円かかるが、銀行・建設会社・不動産業者などの無料相談は中立性がなく信用できないことを理解してもらう。有料でも第三者の客観的なアドバイスの方が信頼できると説明。

 ②資産の全体像を把握
 固定資産の名寄せ帳や決算書を預かり、相続税の試算、固定資産税の将来の目論見を行い、資産の全体像を数値で理解することに努めた。

 ③収益力を分析
 25カ所ある土地ごとの収益力を分析。アパートが建っている土地はある程度収益性があるが、自宅、田畑は固定資産税を支払うとマイナスとなっていることが判った。
 トータルで10億円の資産があるのに、年間収支は1,500万円。ローンを支払ったら手取りは500万円しかない状態だ。ROA(総資産利益率)はわずか1.5%。一般企業ならROAは最低4~5%求められる。つまり資産経営会社としてみた場合、資産がほとんど活用されていないことが数値で明らかになった。
 仮に10億円の現金を持っていたら、誰でも運用します。日本の異常に低い低利率の国債でも1.5~2%ですから、年間1,500~2,000万円の利息になります。
 もし10億円で不動産投資を行い、ネット8%の収益が上がれば年間8,000万円もの収支になるのですから、Oさんの場合、資産を活かし収益を得るという観点から見れば明らかに大きな機会損失をしていることになります。
 ※ROA分析については、第4章で詳しく紹介します。

 ④父親にも報告
 毎回のミーティングの報告書は、父親にも説明した。意外にも要点は理解されていたようだ。ある意味、不動産や相続問題のことについては父親のほうが遥かに詳しい知識もあった。土地オーナーの多くは断片的ではあれ、当人に関する不動産や相続問題の知識はセミプロ級である。

 ⑤急務となった相続対策
 父親の年齢を考えると相続対策は急務だった。そこでまず、駅前の賃貸マンションを全額ローンで購入することを勧めた。約3億円で購入した。年間の収入は約2,500万円。固定資産税等の維持費が年間約400万円となった。
 3億円の借入、25年返済、金利3%で年間の支払は約1,700万円。ローンを支払うと手取りが年間約400万円となった。全額ローンなので、手取りが収入に対して少ないのは仕方ない。今回の賃貸マンションの購入目的は相続対策だからだ。
 この駅前の賃貸マンションを買ったことにより、相続税の課税価格が10億円から約8億円に下がった。約2億円減額でき、税率が50%なので相続税は約1億円節約できたことになる。賃貸マンションを全額ローンで購入しただけで、相続税が約3.6億円から約2.6億円に下がった。3億円で買った賃貸マンションは、実質2億円で買えたのと同じだ。
 元々表面利回りは8.3%だったが、2億円で買えたとすれば表面利回りは12.5%に跳ね上がる。私はこうした効果のことを税効果利回りと命名している。
 ※相続対策については第6章で詳しく紹介します。

 ⑥父親が逝去
 この賃貸マンションを取得後、急に父親の容態が悪化し、亡くなられた。相続対策が間に合ったことが、せめてものなぐさめとなった。

 ⑦締結していた顧問契約が奏功
 相続後の対応は、コンサルタントの腕の見せ所になる。財産目録を作って、遺産分割協議書を作らなくてはならない。しかし今回は顧問契約をしていたので、相続税の試算やROA分析などは既に行っていた。そのため、財産目録の作成と、依頼者や兄弟に対する説明は問題なくスムーズにできた。

 ⑧分割協議もスムーズに
 遺産分割協議書の作成にあたっては、依頼者のOさんと綿密に打ち合わせを行った。次男と三男は父親の土地にマイホームを建てていたので、その土地はそれぞれ次男・三男が相続し、その他の土地・建物・債務はすべて長男が相続することで異論はなさそうだ。
 問題は約4000万円あった現金の取り扱い。Oさんは現金を3等分にしたいとのことだったが、私は思い切って2,000万円ずつ相続してもらうことを提案した。そのほうが、兄弟の納得を得られると思ったからだ。ここで欲張ると、「それなら土地・建物・負債もすべて3分割しましょう」という話が出てくるかも知れません。
 Oさんは父親と同居していたので、生計が一つだった。そのため現金がゼロになってしまうことには抵抗があり、特に奥さんは大変不安だったようだ。でも資産は10億円あり、負債は1.5億円しかない。相続税を支払っても実質資産は6億円も残ることになる。資産を組み換えればいつでも現金化はできる。
 こう説明すると、Oさんは「分かりました。そうしましょう」と納得してくれた。そこで兄弟2人に、私が資産内容やOさんの気持ちを伝え、その場で農協の定期預金を2,000万円ずつ見ていただき、「次男さんはこちらの定期、三男さんはこちらの定期です」と説明した。また「長男さんはこれからもO家の資産管理を行っていかなければならないので、資産の大半を承継します。その代わり現金はすべて次男・三男にお譲りいたします。また、相続税を払うと手取りが減りますので、その税金分は長男さんが負担します」とも説明した。
 2人の兄弟にはそれで納得していただいた。その場で、用意した遺産分割協議書に署名捺印もしてもらえた。何と相続してから1カ月以内に遺産分割協議書が締結され、相続後2カ月以内にすべての名義を変更することができた。後は期限内に相続税を納税するだけとなった。
 スムーズに遺産分割協議が出来た理由は、元々兄弟の仲が良かったことも一因だ。名門の農家だったので長男が家督相続することにもほとんど抵抗がなかった(Oさんと父親がすでに生計を一つにして、家を引継ぐ体制となっていたから)。父親に提出した提案書だったので父親の意思が反映されていると次男・三男が思ってくれた(実質遺言書代わりとなった)ことも寄与した。

 ⑨入札で土地を売却
 相続税を支払うため、土地の売却となった。土地の最有効使用を考えると建売住宅用地に向いていることが分かった。そこで、建売業者を集めて入札を行うことにした。当社が入札代行の委任を受けて実施した。
 駅から遠いということもあり、どの業者も飛びつくというものではなかった。入札と聞いただけで逃げていく建売業者も結構多い。そこで、最初から対象を数社に絞ったシールド入札を行うことにした。売却する土地は全部で7カ所だった。1カ所ごとに入札を行い、一番高い価格を提示した会社にそれぞれ購入していただいた。
 どの土地も最高価格と最低価格との差は3割近くもあり、会社によって土地の評価が違うことに驚いた。結果的には相続税評価額の1.7倍で売却することができた。少なくとも、相続税評価額の1.1倍で売れなければ売却する意味はない。それ以下なら物納した方がいいからだ。

 ⑩広大地の評価減が可能に
 土地を購入した業者は開発をかけて、建売住宅を分譲した。実はこの地域は建ぺい率60%、容積率200%なので、500㎡以上に適用される相続税の広大地評価減が適用されるかどうか心配だった。広大地の評価減が適用されると相続税評価がおおよそ半分になるので、その効果は絶大だ。結果的には、建売業者が購入して開発をかけてくれたので、広大地の評価減が認められるということが裏付けられた。

 ⑪納税金額以上に土地を売却
 実は、納税に必要な金額以上に土地を売却した。相続後は土地を組み換えたいと考えていたからだ。相続した農地はまさに“金食い虫”だった。それを収益不動産に組み換え、安定収入を得たいと考えた。

 ⑫Oさん名義で賃貸マンション購入
 そこで、今度は相続したOさんの名義で、駅前の賃貸マンションを購入することにした。2億円の投資だ。年間約1,600万円の収入があり、資産組み換えなので無借金で購入することもできる。ローンの支払が無ければ年間約300万円の経費を除いた約1,300万円が手取り収入となる。
 ただ、今は低金利時代。手元に現金があった方が安心できるということだったので、実際には今回も借入をして購入した。

 ⑬ROAが6%に上昇
 Oさんの相続後の資産は約8億円になった。資産の組み換えを行った結果、年間の収支は4,800万円となったから、総資産利益率はなんと6%に上がった。従前より3.5ポイントも上昇し、一般企業並みのROAとなった。

 ⑭環境重視の街づくりを計画
 現在は自宅の周りの土地について開発を計画している。分譲用に売却して、細切れの庭のない建売住宅がぎっしり建つのは自宅周辺の環境を壊すのでしたくない。1区画あたりの面積をゆったりとさせて、植栽を施した環境の良い街づくりをしたいと考えている。将来的な資産価値アップにもつながるからだ。 
 そこで、建売会社に土地を売却するのではなく、定期借地権などを活用して自分で土地を開発し、活用していこうと考えている。
 今後は、あまり借入も増やしたくないということなので、開発にかかる費用は土地の売却資金を充てる計画だ。保有土地の面積は減っても、収益性を高めていくことが重要だとOさんも分かってくれている。次に行う資産組み換えは、環境の良い街づくりをするためという、地域貢献も目的の一つとなっている。

 ■Oさんの感想
 不動産は素人には分からない
 不動産のことは、結局素人には分からないということが、よく分かりました。日本の不動産市場は、Jリート(日本版不動産投資信託)など金融商品化された投資商品の登場でかなり透明化が進んでいるようですね。福田さんにJリートのパンフレットを見せてもらいました。
 確かに、立地、価格、利回り、リスクなどの情報がオープンにされていて、すごい資料だと思います。でも、一般の素人にはなかなか理解できないと思います。結局、不動産のことが分かる人に代わりに見てもらい、判断してもらわなければならないはずです。
 見えないリスクをきちんと見てくれるパートナーがいなければ、不動産など購入することは不可能です。

 組み換えの理屈は分かっても、ノウハウがなかった
 福田さんの話を聞いて、資産の組み換えの考え方は分かったのですが、自分には、資産組み換えのノウハウはありませんでした。
 例えば、不動産をなるべく高く売るために入札にすれば良いということは分かるのですが、どのような業者をどうやって選べば良いのかなど具体的なことはなにも分かりません。
 収益不動産を購入するにしても、2億、3億のお金があるからといって、そんなに簡単に決断できることではありません。素人には難しすぎます。インターネットなどで色々な物件の情報は出ていますが、それが優良物件かどうかの判断はかなり難しい。本を読んだり、不動産セミナーにも出てみましたが、そこでは表面的な知識が得られるだけで、実践で使えるものではありませんでした。

 相続が後押ししてくれた
 今回は、相続があったということで、世間に対しても気兼ねなく土地を売却することができました。土地をたくさん売却して、資産を組み換えました。近所の人は、相続でそんなに税金を取られるのかと心配してくれたぐらいです。
 資産の組み換えは慎重になればなるほど、時間がかかります。ある程度自分の考えや計画と、物件が一致したら即行動に移すことが大切だということも良く分かりました。今回良い結果が出たのは、そのタイミングを福田さんのおかげで間違えなかったからでしょう。あれ以上慎重になっていたら、市場の変化に数カ月遅れて良くなかったかもしれません。
 従来から、小遣いで株をコツコツやっていた経験が活きたかもしれません。チャンスを見極める力が少しはついていたのかもしれません。判断するのはあくまでも自分ですから。不動産も株と同じ金融商品だということも今回学びました。
 父がよく「土地を売ったお金を貯金して生活していると10年持たないが、アパート経営というワンクッションを置くと20年持つよ」と話していたのが印象的です。父はそうやって、土地をたくさん残してくれました。これからは土地ではなく、資産の内容を組み換え、総体的に資産を維持していかなければならないと考えています。
 総体的に資産を維持して、その上で収入が増えていかなければならない。株にそれを求めることは難しいと思います。今回、資産を組み換えて本当に良かったと思います。

 中古マンションが安心
 資産の組み換えは、現在収益のあがっている中古物件を買う方が、ある程度収支の目処が立って買いやすいと思いました。新築でも良いと思いますが、私にはかえってリスクが大きいような気がします。
 また、資産の組み換えは、借金しないで投資できるところが魅力です。購入後は維持管理が大切だと思いました。管理をしっかりやると、無駄な出費も抑えられます。管理会社に全部任せっきりにしてしまわない方がいいと思います。管理を委託した場合は、時々管理会社に出向いて様子を聞けば相手方へのプレッシャーになりますね。

 家族の理解が有り難かった
 まず、父親の理解が大変有り難かったです。昔は一切、父は資産のことに口を挟むことを許しませんでした。しかし、私が会社を辞め、一緒に畑仕事をしたり、土地の境界確認をしたりするうちに会話が生まれ、少しずつ財産管理を任せてもらえるようになりました。
 資産家の交流会などで、親がなかなか資産管理を任せてくれないという悩みを聞きますが、それまで会話のなかった子から、そういった話をされたら親としてはドッキリしてしまうのかもしれません。
 女房は今、借金を気にしているようです。これ以上大きくしない方がいいと言っています。融資を受けるときの、あの緊張感は確かに嫌ですね。しかし、今回の経験で良い借金と悪い借金があることを学びました。もちろん、今回の借金は良かったのだと思います。
 ローンを組むときに、私の子供に連帯保証人になってもらいました。私が死んだときに「借金は知らないよ、プラスの資産だけ相続したい」というのは通らないことを承知したという印鑑だと子供に説明しました。10ある土地のうち2が借金で、10だけ貰うわけにはいかない、2も引き受けるのだということです。
 不動産管理の会社を作って、子供は株主にしてあります。そうすることで、普段から子供と不動産管理についての話が出来る雰囲気にはなっています。自分たちも資産管理についてある程度出資しているので関心があるのだと思います。

 資産の組み換え後の生活
 土地だけの時と比べると、今は収入がどんどん入ってきます。若干は気持ちに余裕が出てきました。しかし、浪費しているという意識はありません。旅行に行く回数が少し増えたぐらいです。そんなに生活は大きく変わりません。それでいいと感じています。今やるべきことは、資産をなるべく長持ちさせていくことです。