資産運用ビジネス
地価上昇局面における賃貸住宅経営 ~成功の秘密~
地価上昇局面においては担保価値が上がるため賃貸住宅の建築が促進される。金利の先高感もあいまって駆け込み需要が予想され、その結果競争が激化し今までのような安易な賃貸住宅経営は許されなくなる。一方、不動産投資は益々ヒートアップしている状況で、ファンドだけでなく一般の個人・法人の需要も旺盛である。このような環境の中、どのように賃貸住宅経営をすれば良いのかその成功の鍵を占ってみよう。
第1章 注目される賃貸住宅経営
人口減少時代に突入したにもかかわらず、賃貸住宅経営が今また注目を浴びている。資産家のみならず、一般サラリーマンでさえ年金不信を反映してか、自ら私設年金を賃貸住宅経営でという人々は多い。
賃貸住宅経営を始めたいという人々の動機は以下のようなものである。
所得の減少を補いたい。税金・社会保険料の増加で手取りが減っている。高齢化に伴い老後は賃貸収入で生活したい。相続対策の決め手はやはり賃貸住宅だ。金融機関が積極的に貸してくれる。不動産投資ファンドの隆盛で市場が透明化してきている。経営は賃貸管理会社に任せ所有するだけでよい。資産所得は金融も不動産も譲渡税が原則20%だけで済む。将来ハイパーインフレになる可能性もあるので、今のうちに借金をした方が得である。
このような社会的背景に、長期間の超低金利という異常事態がさらに拍車をかけている。今の賃貸住宅経営や不動産投資ブームは需要サイドというよりは供給サイドのニーズから生まれているということから、競争の激化は避けられない。地価上昇による土地取得費や建築費の上昇、その上に差別化によるコスト増が重なり利回りの低下は必至だ。
このような環境の中で、賃貸住宅経営を躊躇される人々は以下のような不安からだ。
地震や事故があったらどうなる。不労所得はやっぱり気が引ける。借金が払えなくなったらどうしよう。管理が面倒だ。古くなったときの修繕費は?将来金利が上がらないだろうか?入居者がずっといてくれるだろうか?家賃は下がらないだろうか?
不安というのは裏を返せばリスク対策のことで、リスクをコントロールできれば果実が享受できる。
リスク対策で大切なポイントは次の五つである。
1. 金利の上昇には固定金利の選択、返済期間の短縮、返済パターンの複線化
2. 入居対策には入居待ちのできるほどの物件選び、斡旋会社の見直し
3. 老朽化には建物診断と長期修繕計画
4. 地震・不慮の事故には耐震補強、防犯施設、保険
5. 換金性には遵法性のある物件の選択、融資の付く物件の選択
ここで注意していただきたいのは、あまりにも過度のリスク対策を行わないことである。リスク対策はお金がかかるので、お金をかけたことにより収益性が悪化させることが最大のリスクであるからだ。保険の掛けすぎで生活費に困窮することがあってはならないように過度のリスク対策はリスクを増大させることを知っておこう。
第2章 地価上昇による賃貸住宅市場への影響
地価が上昇する局面においては、賃貸住宅の建設が促進される。なぜなら、土地の担保価値が上昇し金融機関からの融資が受けやすくなるからである。賃貸住宅のオーナーの多くは複数の賃貸住宅を所有し、機会があればさらに資産を拡大したいと考えている。
地価の下落時には金融機関は過去に貸し付けた資金の担保割れが生じることもあり、追加の融資に躊躇していた。ところが、下げ止まりが明らかになると、所有する不動産の担保力が増すので、金融機関も貸し出しに積極的になる。
今、不動産業向けの貸し出しがメガバンク、地銀、新規参入銀行にかかわらず大幅に伸びている。金融機関の不良債権処理の見通しがついた現在、益々不動産業向けの融資が積極的になり、その結果賃貸住宅の建設も伸びてくることが予想される。
とりわけ地価の上昇が顕著なのが東京都心部。地価は上昇基調にあっても、住宅の賃料は供給過剰で上がらないと言われていた。ところが別表のとおり、アットホーム株式会社の調査による東京都心部主要エリアの賃料は2005年4月を境に上昇に転じている。成約ベースのデータなので、需要が供給に追いついてきたことを示す。ただし、成約の中で最近急増した新築マンションの割合が増えているとなれば、新築の供給増により統計的に上昇したということで、既存の賃貸住宅の賃料が上昇していると判断するのは早計である。
最近特に気になることは建築費の上昇である。マンションディベロッパーの多くは、計画していた建築費で受注を行う建築会社が見つからず困っているのである。やむを得ず、建築費の予算を上げ、販売価格も上げることになる。地価上昇によって土地取得費が上がっているうえに、建築費も上がっているので売価に反映される。マンション価格が上がれば、賃貸の需要が増えるので賃料も上がる傾向になってくる。
賃料が上がることになれば、建築の供給も増えてくることになる。まさに資産インフレの循環がおこり始めている。
日本の金利が異常であるのは誰もが指摘するところであるが、いずれ金利は上昇するだろうと言われている。「金利が上昇する前に借り入れをして建築しておこう」という駆け込み需要も相まって賃貸住宅の建築は旺盛となる。
これらの現象は都心の主要エリアでおきていることであるが、同様に他の人気地区にも広がりを見せてくると思われる。
賃貸住宅の供給増により競争が激化すると考えられるが、資産家・投資家はどのような対応が必要であるか、以下に紹介していく。
第3章 有効活用から不動産投資へ
東京都心部主要エリアでは賃料の上昇がおきていることからもわかるように、場所によっては賃貸住宅経営に明るさが出てきている。
アパート専門ハウスメーカーの株式会社セレコーポレーション執行役員佐野章本部長は、アパート適地であればアパートの建築をお薦めしているが、そうでなければアパート適地を購入してアパートを建築するように薦めている。アパート経営の成否は一にもニにも立地であることをよく理解した適切な提案である。
有効活用=賃貸住宅建設という発想はそろそろ消え、不動産投資という考え方に切り替わってくるだろう。
例えば、50歳くらいの親御さんにこのような問いかけをしていただきたい。「自分のお子さんは自宅の近くの大学に行きたがりますか?それとも都心にある大学に行きたがりますか?」大半が大学生活をエンジョイしやすい都心の大学に行きたがると答えるはずである。したがって、都心にあるかもしくは都心へのアクセスが良い大学は人気があり偏差値が上がっていき、逆に不便なところは下がっていく。人が集まるところにはさらに人が集まり繁栄していく。例え少子化が心配だと言われようが、賃貸住宅経営もこのようなエリアを狙っていけば成功できる。
表面利回り5%(これではキャッシュフローは大幅にマイナスですが)、2千数百万円もするワンルームマンションが飛ぶように売れる理由はこういったところに理由があるのだろう。
地方の人が東京にワンルームマンションを求めているが、20年前におこったバブルと同じ現象である。今後は地方の裕福な人々が東京に土地を買ってアパートを建てるということも増えてくるだろう。東京都心の大学を卒業して、そのまま東京都心の企業に勤め、そのままアパートに住み続ける。人口減少社会においても、このように人気エリアには定住者が増えていく。
渋谷のITの大手広告代理店であるサイバーエイジェントは、家賃の補助制度があるが渋谷から二駅以内という条件を付けている。交通費の削減と気軽にタクシーで帰宅できることを狙っているのかもしれない。
不動産投資と有効活用の違いは土地を含めての利回りを考えることと、将来の出口を考えることにある。
有効活用は「遊んでいる土地があるから、とりあえず賃貸住宅でも建てて家賃を得よう」との発想であるのに対し、不動産投資は土地建物総額での利回りと将来の売却益を期待するものである。プロの不動産投資ファンドは出資者のためにこのような発想で不動産を運用しているが、今後はこのようなプロとの競争が避けられない。
第4章 海外から魅力の日本市場
マザーズオークションを運営する株式会社アイディユーの代表取締役池添吉則氏は「日本の不動産市場は海外から見て非常に魅力的で、まだまだ日本に世界のお金が集まり、不動産投資が活況を呈するだろう」と見ている。日本の不動産は欧米だけでなくオーストラリアやシンガポールのREITマネーを際限なく吸い込んでいる。2007年3月現在のJ-LEATに投資する59%が外国人投資家であることからも、日本の不動産はもはや国際金融商品であることを物語っている。
ではなぜ、日本の不動産が魅力的であるのだろうか?卑近な例で言うと、ニューヨーク5番街のテナントの賃料が坪50万円に対し、東京銀座のテナントは最高でも坪25万円なので、まだ半値でしかないということが言える。仮にブランドショップが得られる収益が、ニューヨーク5番街と東京銀座で同じくらいとなれば、理論的には半値であるということになる。
もちろん、円安ということも影響しているが賃料に対して東京は他の先進国と比較するとまだまだ安いということだ。
国債の利回りと還元利回りの差をイールドスプレッドと言うが、本来不動産固有のリスクを考えれば、3~4%必要とされていた。ところが、世界で最もイールドスプレッドが高いのは低金利の東京であるがすでに2%近くにもなっている。ロンドン・ニューヨークでは国債利回りを下回る還元利回りとなっており、もはやバブルとなっている。
したがって、東京が安いのではなくロンドン・ニューヨークがバブルとなっていると考えた方が良さそうだ。不動産という商品が国際比較にさらされ、世界規模の競争の中で戦う時代となった。
個人が賃貸住宅への投資をするにあたっても、国内の需給関係だけではなく、海外の投資家の動きや金利、為替、税制までも検討に入れた上で投資判断をしなくてはならない。欧米では不動産はサイクルビジネスであるという認識があり、安い時に買い、高い時に売るということがスタンダードな考え方となっている。
海外から見て日本は割安であると見られている間は日本の不動産の価格も上昇するであろうが、例えば外資が中国のほうが割安だと判断し一斉に日本から手を引くようなことがあれば、日本の不動産も下落が始まり、賃貸住宅の市況も悪化する。
第5章 賃貸住宅差別化戦略
人口減少時代において、全員が勝ち組でいられる時代は終焉し、「勝ち組オーナー」と「負組みオーナー」に分けられる時代となった。
勝ち組になるための手段として、大別して効率化と差別化の二種類の方向がある。効率化というのは不動産投資ファンドがやっていることと思えばよい。
例えば、規模を追求して建築費のコストや建物の管理コストやファンドの運営コストを抑えていくことである。これは今まで大企業が採ってきた基本的な戦略である。家賃を上げることは保証できないが、コストを下げれば努力した分そのまま利益に直結する。個人オーナーでも、管理費や修繕費の削減は可能である。また、建物を何が何でも鉄筋コンクリートにすることはなく、木造や軽量鉄骨の3階建てなどによって初期コストを抑えるということができる。まずは出費を抑えることが経営の基本であることは、賃貸経営においても同じだ。
次に差別化の戦略であるが、こちらは小規模な個人オーナーでも可能である
特定少数にテーマを絞った企画付の賃貸住宅をつくる事である。例えば、ペットを飼っている人だけの賃貸住宅である「ペット共生賃貸住宅」や日曜大工・工芸等の趣味を持った人の為の「サービスルームのある賃貸住宅」、また、ミュージシャンの為の「防音室のある賃貸住宅」、その他、バイク好きの為の「ガレージ付き賃貸住宅」、「家庭菜園付き賃貸住宅」などがある。
これらは、対象が特定少数なので需要も少ないが、供給がほとんどないところに供給するので家賃が通常より高く取れる。
ただ、ここで気をつけておきたいことは、これら企画付の賃貸住宅を建てるときのコストが高くなりがちであるということ。たとえ賃料が10%上がったとしても、建築費が10%上がってしまったのでは意味がない。また、これら企画付の賃貸住宅もある程度市場に出回ると賃料上昇が望めなくなり建築費のコストアップ分だけがデメリットとなる。ペット共生型賃貸マンションなどは、中古にも採用されてきているので希少性は薄れている。
自宅だと防犯や急病などの助けが必要なときの不安が残るし、かといって施設では自分らしい生活ができないなどプライバシーの問題が残る。それに対して高齢者(健常者が多い)専用賃貸住宅では、自宅と施設の良さを兼ね備えている点が魅力であるという。有料老人ホームやデイサービスの義務や規制の強化が供給を後押ししている側面もある。
従来型の賃貸住宅では少子化であるのに供給増という、逆風の中での経営を余儀なくされる。そこで高齢化時代を睨んで高齢者向け賃貸住宅という新しいマーケットを創造している。
外観は邸宅風、内部は通常の個々の賃貸住宅の間取りの他に共用部分にリビングルームを設け、さながら欧米の若者が利用しているルームシェアーの高齢者版のようなものである。このような触れ合いの場の提供も賃貸住宅経営ならではの機能であり、差別化の目の付け所である。
他の差別化の事例として、都心部での自宅併用賃貸、高級住宅街と地方での戸建借家、袋地の土地に建築できる長屋など差別化と隙間を狙った多種多用な賃貸住宅が建設されるようになってきた。
第6章 まとめ
少子化時代であるにもかかわらず賃貸住宅は供給サイドの事情で増えつづけているが、地価の上昇によってさらに拍車がかかる。賃貸住宅の基本は一にも二にも立地なので、たまたま持っている土地に建てるということではなく、立地にこだわり賃貸住宅適地に組み替えて建築するということも考えてみよう。
不動産は流動化の時代となったので、ずっと持ち続けることもよいが、換金することも念頭において建築するなど、不動産投資の考え方を取り入れよう。
不動産投資の世界では海外のプレーヤーも参入、日本の市場は魅力的と映り世界規模の競争が繰り広げられている。
競争に勝ち残るために差別化が必要であるが、一つには規模の拡大とコストの削減、もう一つの方向性として企画付賃貸住宅や高齢者向け賃貸住宅がある。単なる箱の提供ではなく、快適な生活を提供する賃貸住宅の提供が必要だ。
「賃貸住宅もホテルのようなサービス業」という位置付けとして認識すれば新しい発想が生まれてくる。