第1回 習慣が支配
残念ながら不動産の世界は座学だけでは通用しない。
宅地建物取引主任者の資格を取り、仕事に従事してもすぐには一人前扱いされない。資格は法律の知識があれば与えられる。ところが実務では暗黙のルール、すなわち不動産取引特有の慣習を理解し、かつ技術として身に付けている必要がある。
不動産に携わる人々は後輩に対し「不動産は、習うより慣れろ」とアドバイスする。まるで徒弟制度が残っているような職人の世界である。私自身このような非合理な発言は好きではないが、現実には全くそのとおりなので否定できない。
例えば、借地権。一旦借りた土地は返さなくても良い。普通なら借りたものは返すのが当たり前、返さなければ犯罪である。しかし、土地の場合は返さなくてもよく、法律で堂々と認めているのである。定期借地権という制度が平成4年8月1日に創設され、やっと借りたものを返すようにとの法律ができたものの、借り得の慣習が残っている中、おいそれ貸す土地所有者はでてこなかった。
不動産の取引の大半が相対取引(あいたいとりひき=売主と買主の一対一の取引)になっているのもヘンである。価格の合理的な根拠がないままに取引されている。世間に不動産を売却することを知られたくない売主と、なるべく競争を避けたい買主と仲介者の利害が一致し微妙な関係が成り立っている。民間でもオークションが始まったところだが、今までの慣習を引きずっているので一般化されるのに時間がかかっている。競争原理が働きにくく不透明感の残る不動産業界は時代から取り残され、米国流不動産金融プレイヤーに市場が席捲されつつある。
売主・買主から手数料を受け取る両手手数料の慣習も合理的に説明が付かない。売主と買主の双方の代理をするというのはいったいどっちの見方なのだろう。
不動産取引はこのような論理や経済合理性とは違う別の慣習に支配されて戸惑うことが多い。
今度の連載ではこれら不可解な慣習にスポットをあて、不動産取引の原理原則を掘り下げていきたいと考えている。と同時にビジネスチャンスのヒントを提供していきたい。

